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『企業内部紛争36講 ― 経営権争いの教科書 ―』【第12講】

議事録はあるのに総会がない ― 決議不存在と会社運営の立て直し―

第12講 議事録はあるのに総会がない|明徳法律事務所

第12講役員・機関・意思決定

議事録はあるのに総会がない

決議不存在と会社運営の立て直し

明徳法律事務所 弁護士 坂本龍亮読了目安 19分

この講の結論

議事録があることと、有効な決議があることは別です。中小企業では、税務申告や登記のために毎年議事録だけを作り、株主総会を実際には開いていない会社が少なくありません。平時はそれで問題が表面化しなくても、内紛が始まると、過去の役員選任や定款変更のすべてが「本当に決議があったのか」という形で問われます。まず、会議が実際に開かれたのか、会社法319条の決議省略の要件を満たしているのか、全員出席総会として成立していないかを確かめ、そのどれにも当たらないときに初めて決議の不存在を検討します。不存在の決議で選ばれた取締役が招集した後の総会の決議も、原則として存在しないものと扱われますから、影響は一つずつ年月日を追ってたどる必要があります。同時に、不存在だと考えていても、取消しの訴えの3か月の期間だけは守っておく必要があります。

「開いていない」だけで決めない

「株主総会など一度も開いたことがない」という言葉は、内紛の相談で最初によく聞くものです。しかし、会議室に集まって議長が開会を宣言するという形式をとらなくても、株主総会の決議が有効に成立する場合はあります。株主全員の同意があれば招集の手続を経ずに総会を開くことができますし(会社法300条。書面投票や電子投票を定めた場合を除きます)、取締役や株主の提案に株主全員が書面や電磁的記録で同意すれば、会議を開かなくても決議があったものとみなされます(319条1項)。株主全員が開催に同意して出席した総会であれば、招集手続を欠いていても決議は有効に成立します。したがって、「開いていない」という一言で不存在と決めつける前に、何が提案され、誰が、どの方法で、いつ同意したのかを一つずつ確かめる必要があります。

他方で、会計事務所や司法書士に書類の作成を任せていた会社では、「毎年きちんと議事録を作っていた」という説明が、決議の存在の証明になると誤解されがちです。株主総会の議事録は、法務省令の定めに従って作成しなければならない書面または電磁的記録であり(318条1項、会社法施行規則72条)、そこには開催の日時と場所、議事の経過の要領と結果、出席した取締役の氏名などを記載します。しかし、議事録は決議の内容を記録する文書であって、決議を成立させる文書ではありません。取締役会の議事録と違って、株主総会の議事録には出席者の署名や押印も会社法上は求められていません(登記の添付書類にする場合に登記の規則上押印を求められることはありますが、決議の成否とは別の問題です)。株主と債権者は、営業時間内いつでも議事録の閲覧謄写を請求できます(318条4項)。議事録が整っていても、記載された日に記載された場所で総会が開かれ、記載された株主が出席して決議したという事実がなければ、決議はありません。逆に、議事録が作られていなくても、実際に総会が開かれて決議があれば、決議自体は存在します。議事録の有無と決議の有無は、別々に確かめるべき事実です。

319条の決議省略

取締役または株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合に、その提案について議決権を行使することができる株主の全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされます(319条1項)。取締役会の決議省略(370条)と異なり、定款の定めは要りません。同意の書面や電磁的記録は、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置かなければならず(同条2項)、株主と債権者は営業時間内いつでも閲覧謄写を請求できます(同条3項)。この場合にも議事録は作成しますが、その内容は、決議があったものとみなされた事項、提案者の氏名、決議があったものとみなされた日、議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名になります(施行規則72条4項1号)。

この制度で確かめる点は四つあります。第一に、具体的な提案があったかどうかです。「役員を続けることに異存はない」といった漠然とした了解ではなく、誰を取締役に選任するという議案の形をとった提案が必要です。第二に、「全員」の範囲です。株主名簿上の株主のうち、その事項について議決権を行使できる者の全員が対象ですから、一人でも同意していない株主がいれば決議はみなされません。過半数や大多数の同意では足りません。第三に、同意の方式です。書面または電磁的記録による同意の意思表示が必要で、電話や面談での口頭の了解では要件を満たしません。電子メールやメッセージアプリでの明確な同意は電磁的記録に当たり得ますが、保存されているか、誰が送ったものかを特定できるかが争点になります。第四に、同意の時点です。決議があったものとみなされるのは全員の同意が揃った時であり、その日が選任の効力発生日になります(就任承諾が後であれば、就任日はその承諾の日です)。後日、既に作られていた議事録に株主が順次押印したという経緯は、押印の時点で提案への同意があったと評価できる場合もありますが、議事録に記載された日に決議があったことにはなりません。

内紛では、相手方が「あの年の役員改選は319条の同意で済ませた」と主張してくることがあります。そのときは、同意書面の原本の提示を求め、提案の内容と同意の対象が一致しているか、同意した株主が当時の株主全員か、書面の日付と作成の経緯が整合しているかを確かめます。株主として同意書面の閲覧謄写を請求できることは、この場面で役に立ちます。

全員出席総会

最高裁は、招集権者による株主総会の招集の手続を欠く場合であっても、株主全員がその開催に同意して出席したいわゆる全員出席総会において、株主総会の権限に属する事項について決議をしたときは、その決議は有効に成立すると判断しています(最判昭和60年12月20日[出典])。同じ判決は、株主本人ではなく代理人が出席した場合について、株主が会議の目的である事項を知ったうえで委任状を作成し、かつ決議がその目的事項の範囲内のものである限り、代理人による出席を含む全員出席総会の決議も有効に成立するとしています。招集通知がなくても、株主全員が集まって議論し決めたのであれば、通知の目的は達せられているからです。

ただし、この法理は要件を厳密に見なければなりません。「株主全員」が誰かは、株主名簿と株式の帰属をめぐる争いがあれば直ちに問題になります。名義株、相続で未分割の株式、譲渡の効力が争われている株式があると、その株主が出席していたのか、出席したとして誰が議決権を行使したのかの前提が崩れます。「開催に同意して」出席したことも必要で、たまたま同じ場所に居合わせた、あるいは呼ばれて来てみたら総会だと言われたという場合には、開催への同意があったとはいえません。招集手続に瑕疵があることを知りながら異議を述べずに出席したかどうかが問われるのであり、その場で反対し、後に議事録の開示を求めていた株主がいた事案では、委任状を出した株主を含めて全員が出席したと見られる場合でも瑕疵の治癒は認められていません(大阪地判平成30年9月25日金判1553号59頁)。そして、その場で議案について審議し、採決したという実体が必要です。親族が食事の席に集まり、その席で「今年も頼む」という会話があったというだけでは、株主総会の決議にはなりません。

不存在・取消し・無効の境界

株主総会の決議に瑕疵がある場合の争い方には、決議の不存在の確認の訴え、決議の無効の確認の訴え(830条)、決議の取消しの訴え(831条)の三つがあります。決議の内容そのものが法令に違反する場合が無効事由であり、招集手続や決議の方法が法令や定款に違反し、または著しく不公正であるとき、決議の内容が定款に違反するとき、特別の利害関係を有する者の議決権行使によって著しく不当な決議がされたときが取消事由です。830条1項は不存在確認の訴えを定めていますが、どのような場合が不存在に当たるかは定めておらず、会議や決議の実体がまったくない場合と、手続の瑕疵が著しいために決議が存在したと法的に評価できない場合の両方を含むと解されています。議事録だけがあって総会が開かれていないという本講の場面は、前者の典型です。

難しいのは、手続に瑕疵はあるが何らかの会合は開かれたという中間の場合です。代表取締役が取締役会の招集決定を経ずに株主総会を招集した場合は、取消事由にとどまるとされています(最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁)。これに対して、取締役会の決議もなく、代表取締役でもない取締役が招集した総会の決議は、不存在とされています(最判昭和45年8月20日判時607号79頁)。招集通知が一部の株主に届いていなかった場合も、通常は取消事由ですが、株主9名のうち6名(持株の約4割)に通知をせず、代表取締役とその子2名に口頭で知らせただけで親子3名で開いた総会の決議は、不存在とされています(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁)。通知を受けなかった株主の議決権の割合が大きく、通知漏れが意図的であるほど、不存在と評価されやすくなります。もっとも、どちらに当たるかは事案ごとの評価であり、通知を受けなかった株主の持株が8割を超える事案で取消事由にとどまるとした裁判例もあります(東京高判昭和59年4月17日判時1126号120頁)。当事者が「これは不存在だ」と確信していても、裁判所が取消事由にとどまると判断することはあり、その場合にはさらに、瑕疵が重大でなく決議に影響を及ぼさないとして請求が棄却されることもあります(831条2項)。ここに、後述する3か月の問題が生じます。

後続決議への影響――瑕疵の連鎖

取締役を選任する株主総会の決議が存在しない場合、その決議によって選任された取締役で構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、その取締役会で選定された代表取締役も正当に選定されたものではないため、株主総会の招集権限を持ちません。最高裁は、そのような代表取締役が招集した株主総会で新たに取締役を選任する決議がされても、全員出席総会でされたなどの特段の事情がない限り、その決議も法律上存在しないものと解すべきだと判断しています(最判平成2年4月17日[出典])。最初の選任決議が存在しなければ、その後に毎年繰り返された役員改選の決議も、招集権限のない者による招集として次々に不存在になるというのが、いわゆる瑕疵の連鎖です。瑕疵が引き継がれている限り、後の総会で再任を重ねても先行決議の瑕疵は治癒されません。先行の決議の取消しを求める訴えと、後行の決議の効力を争う訴えが併合されている場合には、先行の決議が取り消されるべきかどうかが後行の決議の効力の先決問題になるため、後行の総会が全員出席総会でされたなどの特段の事情がない限り、先行の決議を争う訴えの利益は消滅しません(最判平成11年3月25日民集53巻3号580頁、最判令和2年9月3日民集74巻6号1557頁)。

もっとも、「最初の決議が不存在なら、その後のすべてが自動的に不存在になる」と単純化することはできません。まず、連鎖を断ち切る特段の事情の有無を、総会ごとに確かめます。ある年の総会が実際に全員出席総会として開かれていれば、そこで選任された取締役は有効に選任され、以後の連鎖はそこで止まります。次に、任期満了や辞任によって退任した取締役は、後任者が就任するまでなお取締役としての権利義務を有し(346条1項)、代表取締役についても同じ規定がありますから(351条1項)、以前に有効に選任されていた者が不存在の決議で「再任」されたにすぎない場合には、その者が権利義務取締役や権利義務代表取締役として招集権限を持っていた、という構成が成り立つことがあります。また、ここまで述べた判例はいずれも取締役会設置会社の事案です。取締役会を置かない会社では、各取締役が株主総会を招集でき(296条3項、348条)、株主総会の権限も広い(295条1項)ため、連鎖の切れ方は異なります。誰が、いつ、どの決議で選任され、その決議は有効か、その者の任期はいつ満了し、後任者は有効に選任されたのかを、年月日の順にたどらなければ、連鎖の切れ目は見つかりません。さらに、対外的な取引については、不存在の決議で選任された代表取締役が第三者との間でした行為の効力が別に問題になり、表見代表取締役の規定(354条)や不実登記の規定(908条2項)による第三者保護を検討することになります。この点は第10講で扱いました。

訴えの選び方と期間

決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(831条1項)。この期間を過ぎると、取消事由による争いはできなくなります。取消事由の追加も3か月以内にしなければならないとされています(最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁)。これに対して、不存在確認と無効確認の訴えには出訴期間の定めがありません。そのため、「不存在だから急がなくてよい」と考えがちですが、前節で述べたとおり、不存在か取消事由かの評価は裁判所が最終的に決めることであり、不存在確認の訴えを起こしたものの取消事由にとどまると判断され、そのときには3か月を過ぎていた、という結果は避けなければなりません。決議の日から3か月以内であれば、不存在確認の訴えに取消しの請求を予備的に加えておくのが安全です。無効確認の訴えで主張された瑕疵が取消事由に当たる場合に、その訴えが出訴期間内に提起されていれば、後に追加された取消しの主張は無効確認の訴えの提起時にされたものとして扱うとした判例がありますが(最判昭和54年11月16日民集33巻7号709頁)、不存在確認の訴えに当然に取消しの請求が含まれるものとして審理すべきではないとした裁判例もあり(東京高判昭和59年4月17日判時1126号120頁)、これに頼るのは危険です。

これらの訴えの被告は会社であり(834条16号・17号)、認容判決は第三者に対しても効力を有します(838条)。決議の不存在や無効は、訴えによらずに他の訴訟の前提問題として主張することもできますが、対世的に確定させて登記を是正するには確認の訴えが必要です。役員選任決議の不存在や取消しを認める判決が確定すると、裁判所書記官の嘱託によって登記が是正されます(937条1項1号ト)。株主が原告となる場合、被告である会社の申立てにより、裁判所が担保の提供を命じることがあり、会社は原告の訴えの提起が悪意によることを疎明しなければなりません(836条1項・3項)。原告の株主が取締役や監査役でもあるときは、この担保提供の対象になりません(同条1項ただし書)。訴えの利益にも注意が必要です。役員選任決議の取消しを求める訴えは、その決議で選任された役員の全員が任期満了で退任し、その後の総会で適法に後任が選任されたときには、特別の事情がない限り訴えの利益を失うとされており(最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁)、不存在確認の訴えでも同じ考え方が当てはまります。後任の選任が瑕疵の連鎖の中にあるなら、前節で述べたとおり訴えの利益は残ります。

立証と暫定措置

決議の不存在は、「なかったこと」の立証という性質上、周辺の事実を積み上げて示すことになります。次の表は、確認する対象と、資料を見るときの注意点をまとめたものです。

表は横にスクロールできます。

確認対象主な資料注意点
総会の開催招集通知の控えと発送記録、会場の予約や利用の記録、当日の出欠連絡、参加者の手帳や電子メール、交通費の精算自分の手元に通知がないことだけでは、通知が発せられなかったとは断定できない。会社側の発送記録の有無を確かめる
決議の省略(319条)提案書、株主全員の同意書面または電磁的記録の原本、備置きの状況提案の内容と同意の対象が一致しているか。同意者が当時の株主全員か。日付と作成経緯が整合するか
全員出席総会出席者の記憶と記録、委任状、当日のやり取りの記録株主全員が誰かの確定。開催への同意の有無。審議と採決の実体
議事録・同意書の署名押印原本、作成と送付の経緯、押印の時期文書が本人の意思で作成されたかという真正の問題と、記載された決議があったかという問題を分ける
後続の手続役員の就任と退任の履歴、以後の各総会の資料、登記の履歴事項権利義務取締役の構成の可否と、連鎖を断つ特段の事情の有無を総会ごとに検討する

決議の効力を争う訴訟は、判決まで年単位の時間がかかります。その間に、不存在の決議で選任されたはずの役員が会社の資産を処分したり、新株を発行したりするおそれがあるときは、訴訟だけでなく、取締役の職務執行停止と職務代行者選任の仮処分や、特定の行為の差止めの仮処分を検討します。相手方が今後も議事録だけを作って役員変更の登記を動かすおそれがあるなら、登記所への不正登記防止申出(第10講)も併せて検討します。逆に、決議の存在を主張する会社の側は、実際に成立している決議と同意の資料を早期に提出して争点を絞るとともに、争いの続く間の意思決定を、後から瑕疵を指摘されない手続で積み重ねる必要があります。

会社運営を立て直す

過去の決議に不存在の疑いがある会社で最初にすべきことは、現時点で誰が適法な取締役であり、誰に株主総会の招集権限があるかを確定することです。適法な取締役がいなければ、権利義務取締役の構成を検討し、それも難しければ、裁判所に一時取締役の選任を申し立てます(346条2項)。株主総会を開くべきなのに取締役が動かない場合には、総株主の議決権の100分の3以上を有する株主が招集を請求し、それでも招集されなければ裁判所の許可を得て自ら招集する経路があります(297条1項・2項・4項。公開会社でない会社では6か月の保有要件はありません)。株主の側にも、会社を動かす手段は残されています。

そのうえで、必要な決議を、現在の適法な手続によって新たに行います。過去の議事録を作り替えたり、日付を遡らせた同意書を集めたりして、過去を整えることはできません。存在しなかった決議の議事録を作って登記を申請すれば、公正証書原本不実記載等の罪(刑法157条1項)の問題になり得ますし、出席していない株主が賛成したという虚偽の内容の議事録を作成したことについて、その株主に対する不法行為が成立するとした裁判例もあります(大阪高判令和3年7月30日。認められた損害額は少額でした)。新たに行う決議は、株主全員の同意があれば319条の決議省略や招集手続の省略を使えますし、全員の同意が得られないなら、招集通知を正しく発して総会を開きます。株主の範囲に争いがあるなら、争いのある株主にも通知を発しておくのが安全です。

ただし、新たな決議で将来の運営を整えても、過去の問題がすべて解消するわけではありません。不存在の決議に基づいて支払われた役員報酬、不存在の決議で選任された取締役が行った取引、その間に発行された株式の効力、瑕疵のある決議に関与した者の責任は、それぞれ別に検討します。公開会社でない会社で株主総会の特別決議を欠いてされた新株発行は無効原因があるとされていますが(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁)、新株発行無効の訴えには効力発生日から1年の出訴期間があります(828条1項2号)。過去の各行為について、効力、責任、時効を一覧にして管理し、新たな決議で解決した事項と、なお残る事項を区別しておきます。

PRACTICE NOTE

作成日と開催日は別の事実

議事録の電子ファイルの作成日時が総会の予定日より前になっていることを、「総会を開く前に議事録ができていた証拠だ」と主張したくなる場面があります。しかし、会計事務所が議案どおりに可決される前提で雛形を事前に用意しておくことは珍しくなく、作成日時が前であることだけでは、開かれなかったことの証明にはなりません。逆に、開催日より後の日付で作成されたファイルがあることも、開催の証明にはなりません。ファイルの日付は、その文書がいつ作られたかを示すにすぎず、そこに記された出来事があったかどうかとは別の事実です。

立証で力を持つのは、複数の事実の積み重ねです。出席者への連絡の記録、会場や会議システムの利用記録、提案と同意のやり取り、議案の資料、当日の各人の行動を示す記録、議事録ファイルの作成と修正の履歴を並べ、開催されたという説明と整合するかを検討します。書面がいつ作られたかと、書面に記された出来事があったかを分けて立証するという姿勢は、自分の側の主張を組み立てるときにも、相手方の主張を崩すときにも同じです。

実務チェック

  • 対面の総会、319条の決議省略、全員出席総会のどれに当たるかを、総会ごとに区別して確かめる。
  • 319条の同意は、提案の内容、全員の範囲、書面または電磁的記録の方式、同意の時点の四つを確認する。
  • 最初の役員選任から現在までの連続性を年月日でたどり、連鎖を断つ特段の事情と権利義務取締役の構成を検討する。
  • 不存在だと考えていても、決議の日から3か月以内に取消しの請求を予備的に加える。
  • 争いの間の意思決定は、瑕疵を指摘されない手続で新たに積み重ね、過去の記録を作り替えない。
  • 資産の処分や新株発行が迫るなら、仮処分を併せて検討する。

よくある質問

不存在確認には期限がありませんか。

会社法830条の不存在確認の訴えには、取消しの訴えのような出訴期間の定めはありません。ただし、確認の利益が必要ですし、裁判所が取消事由にとどまると判断する可能性がある以上、決議の日から3か月以内であれば取消しの請求を予備的に加えておきます。また、不存在の決議に基づく報酬の返還や損害賠償といった関連する請求には、それぞれ消滅時効があります。

議事録を全員で作り直せば解決しますか。

過去の事実に反する記録を作ることはできません。今から必要な決議を適法な手続で新たに行うことと、過去の行為をどう処理するかは、分けて考えます。株主全員が協力できる状況なら、319条の決議省略で新たな決議を成立させるのが最も簡単ですが、その効力は同意が揃った時から生じるのであって、過去に遡ることはありません。

開かれていない総会の議事録に、自分も押印してしまいました。

押印した事実は、その内容の決議に同意していたという方向の証拠になりますから、後から不存在を主張する立場は弱くなります。もっとも、押印が319条の同意の意思表示と評価できるかどうかは、押印の時点で具体的な提案を認識していたか、他の株主全員も同意していたかによります。押印した経緯、説明を受けた内容、押印の時期を正確に整理してください。押印していても、他の株主が一人でも同意していなければ、決議省略の要件は満たされません。

この講の主な根拠条文・裁判例

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕295条〜300条、318条〜319条、346条、348条、351条、354条、370条、828条、830条〜831条、834条、836条、838条、908条、937条
  • 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕72条
  • 刑法〔e-Gov法令検索〕157条
  • 最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁株主の過半数(持株の約4割)に招集通知を発せず、代表取締役と親族2名だけで開いた総会の決議を不存在とした判例
  • 最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁役員選任決議の取消しの訴えは、選任された役員全員が任期満了で退任し適法に後任が選任されたときは、特別の事情がない限り訴えの利益を失うとした判例
  • 最判昭和45年8月20日判時607号79頁取締役会の決議に基づかず、代表取締役でない取締役が招集した株主総会の決議を不存在とした判例
  • 最判昭和46年3月18日民集25巻2号183頁代表取締役が取締役会の決議を経ずに招集した株主総会の決議は取消事由にとどまるとした判例
  • 最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁決議取消しの訴えにおける取消事由の追加も決議の日から3か月以内にしなければならないとした判例
  • 最判昭和54年11月16日民集33巻7号709頁無効確認の訴えで主張された瑕疵が取消事由に当たる場合、その訴えが出訴期間内に提起されていれば、後の取消しの主張は無効確認の訴えの提起時にされたものとして扱うとした判例
  • 東京高判昭和59年4月17日判時1126号120頁持株の8割を超える株主に招集通知を欠いた総会の決議について取消事由にとどまるとし、決議不存在確認の訴えに当然に取消しの請求が予備的に含まれるものとして審理すべきではないとした裁判例
  • 最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁〔裁判所ウェブサイト〕株主全員が開催に同意して出席した全員出席総会の決議は招集手続を欠いても有効に成立し、代理人による出席の場合も、株主が目的事項を了知して委任状を作成し、決議がその範囲内であれば同様であるとした判例
  • 最判平成2年4月17日民集44巻3号526頁〔裁判所ウェブサイト〕取締役選任決議が不存在である場合、その取締役で構成された取締役会が選定した代表取締役が招集した株主総会の決議も、全員出席総会でされたなどの特段の事情がない限り不存在であるとした判例
  • 最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁公開会社でない会社において株主総会の特別決議を欠いてされた募集株式の発行は無効原因があるとした判例
  • 最判平成11年3月25日民集53巻3号580頁、最判令和2年9月3日民集74巻6号1557頁先行の役員選任決議を争う訴えと後行決議の効力を争う訴えが併合されている場合、後行の決議が全員出席総会でされたなどの特段の事情がない限り、先行の決議を争う訴えの利益は消滅しないとした判例(令和2年判決は事業協同組合の役員選挙に関する事案)
  • 大阪地判平成30年9月25日金判1553号59頁定足数を欠く取締役会の決議に基づいて招集された株主総会について、株主が瑕疵を認識しつつ開催に同意していたとはいえないとして、全員出席総会による瑕疵の治癒と裁量棄却のいずれも否定した裁判例
  • 大阪高判令和3年7月30日(判例集未登載)出席していない株主が賛成したとの虚偽の内容を記載した株主総会議事録を作成した行為について、当該株主に対する不法行為の成立を認めた裁判例

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。

公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日

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