第22講利益配分と責任追及
会社の取引を、自分の会社に流す役員
役員の別会社との取引を検証する
この講の結論
役員が自分の関係する別会社と取引をしていた、同業の会社を持っていた、会社に来た話を自分の会社で受けていた。こうした事実が内紛の中で見つかったとき、すべてを一括りに「利益相反」と呼んで違法と決めつけるのは正確ではありません。会社法が承認を要求するのは、取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をする競業取引(356条1項1号)、取締役が自己または第三者のために会社と取引をする直接取引(同項2号)、会社が取締役の債務を保証するなど会社と取締役の利益が相反する間接取引(同項3号)の三つであり、それぞれ承認の要否、承認を欠いた場合の効力、責任の推定の仕組みが異なります。承認があっても取引条件が会社に不利益であれば責任は残り、承認がなくても会社に損害がなければ賠償は生じません。会社の機会や情報を自分の会社に流用した行為は、この三類型に収まらなくても、忠実義務・善管注意義務の問題として追及できます。取引の類型、承認の手続、取引の条件、会社の損害を分けて検証することが、この講の骨格です。
競業取引
取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)において重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません(会社法356条1項1号、365条1項)。「事業の部類に属する取引」とは、会社が実際に行っている事業と市場で競合し、会社と取締役の間に利益の衝突を生じさせるおそれのある取引をいいます。定款の目的に書かれていても現に行っていない事業は対象外である一方、会社が進出を計画して市場調査などを進めていた地域や分野での取引は、会社の新規進出が相当程度確実であれば対象になります。製パン会社の代表取締役が、会社が進出を計画し市場調査を進めていた関西地区に、自分と家族らが株式を持つ別会社を設立し、自ら代表取締役となって同種の事業を営んだ行為について、競業避止義務違反を認めた裁判例が、この考え方の出発点です(東京地判昭和56年3月26日判時1015号27頁)。
「第三者のために」とは、名義ではなく実質的に第三者の計算で取引をすることをいうと解されています。したがって、取締役が別会社の代表者として取引をする場合はもちろん、代表者でなくても、その別会社を実質的に支配し、その会社の計算で取引をさせている場合は、競業取引に当たり得ます。別会社の株式を持っているだけ、役職に就いているだけでは競業取引ではなく、実際に競合する取引が行われて初めて問題になります。独立の準備をすること自体も直ちに競業取引ではありませんが、在任中に会社の注文を別会社に振り向ける、会社の従業員を大量に引き抜く、取引先に別会社への切替えを勧誘するといった行為は、競業取引または忠実義務違反として責任を問われます。退任後の競業は第34講で扱います。
直接取引・間接取引
取締役が自己または第三者のために会社と取引をする場合が直接取引です(356条1項2号)。会社が取締役から不動産を買う、取締役に金銭を貸す、取締役が代表者を務める別会社と会社が契約するといった場面がこれに当たります。会社が取締役の債務を保証する、取締役の借入金のために会社の資産に担保を設定するなど、取締役以外の者との間で会社と取締役の利益が相反する取引が間接取引です(同項3号)。取締役が代表取締役を兼ねる別会社の債務を会社が保証した事案について、最高裁は旧商法の下でこれを承認を要する取引に当たるとしています(最判昭和45年4月23日民集24巻4号364頁)。また、会社が取締役個人の債務を引き受けた事案では、承認がない場合でも、会社が相手方に対して無効を主張するには、相手方が承認のないことを知っていたことを会社が主張立証しなければならないとされました(最大判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁)。
争いになる取引は、双方の当事者、双方の代表者、実際に利益を受ける者、資金の流れを図にして整理すると、類型の判断がしやすくなります。取締役が相手会社の代表者や代理人として会社と契約している場合は、第三者のためにする直接取引(2号)です。取締役が代表者ではないものの、相手会社の株式の大半を持つなどして実質的に支配し、その会社の損益が取締役の損益と同視できる場合は、取締役以外の者との取引であっても会社と取締役の利益が相反する間接取引(3号)として承認を要すると解されています。逆に、相手会社の株主が取締役の親族である、代表者が取締役の友人であるという事情だけでは、当然に法定の利益相反取引になるわけではありません。なお、取締役が会社を代表して自分自身と契約し、あるいは会社と自分が代表する別会社の双方を代表して契約する行為は、民法108条の自己契約・双方代理(同条1項)や利益相反行為(同条2項)にも当たりますが、356条1項の承認を受けた直接取引と間接取引には民法108条は適用されません(356条2項)。
承認機関と議決
承認機関は、取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会です。承認を求める取締役は、取引の相手方、内容、条件、自分が受ける利益など、承認機関が取引の是非を判断するのに必要な重要な事実を開示しなければなりません(356条1項柱書)。反復継続する同種の取引について、期間や取引条件を特定した包括的な承認を受けることは可能ですが、内容が特定されない白紙の承認では要件を満たしません。取締役会で承認する場合、その取引について特別の利害関係を有する取締役は議決に加わることができず(369条2項)、定足数と賛成数の計算からも除かれます(同条1項)。取締役会設置会社では、取引をした取締役は取引後遅滞なく重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(365条2項)。承認の議事録に開示された事実と条件が記載されているか、利害関係取締役が退席または議決に加わっていないか、事後の報告があったかは、後の責任追及で必ず確認する事項です。
株主総会が承認機関である場合、利益相反の当事者である取締役が株主でもあるときでも、取締役会の場合と異なり、その株主の議決権を当然に排除することはできません。株主として議決権を行使することは認められており、その結果として著しく不当な決議がされたときに、831条1項3号の取消事由が問題になるにとどまります。また、株主全員の同意があるときは総会や取締役会の承認を欠いても取引は有効であり(最判昭和49年9月26日民集28巻6号1306頁)、取締役が株式の全部を所有し、事業が実質的にその個人経営である会社(一人会社)では、承認は不要とされています(最判昭和45年8月20日民集24巻9号1305頁)。内紛の場面でよく問題になるのは、かつては株主全員が同意していた取引が、株主構成の変化や相続で新たな株主が加わった後も承認なしに続けられている場合です。株主構成が変わった後に新たにされる取引や、契約の更新・条件の変更については、新たな株主を含めた全員の同意か、承認機関の承認が改めて必要になります。全員の同意の下で締結済みの契約をそのまま履行している部分が直ちに承認を欠く取引になるわけではありませんが、更新や条件変更の際に承認手続を欠いていないかを確認します。
承認と責任は別問題
承認は取引を有効にするための手続であって、取引の条件が会社にとって適正であることまで保証するものではありません。承認を受けた取引でも、条件が会社に不利益で会社に損害を生じさせたときは、取引をした取締役や承認に賛成した取締役に任務懈怠責任が生じ得ます(423条1項)。会社法は、責任の立証を助ける推定規定を置いていますが、何が推定されるかは類型ごとに異なります。
表は横にスクロールできます。
| 規定 | 対象 | 推定・特則の内容 | なお会社側が示す必要のある事項 |
|---|---|---|---|
| 423条2項 | 承認を受けずにした競業取引 | 取引によって取締役または第三者が得た利益の額を、会社の損害の額と推定する | 競業取引に当たること、承認がないこと、取締役または第三者が得た利益の額(売上ではなく利益) |
| 423条3項 | 直接取引・間接取引(承認の有無を問わない。監査等委員会設置会社で監査等委員会の承認を受けた取引は除く。同条4項)で会社に損害が生じたとき | 取引をした取締役、取引を決定した取締役、承認決議に賛成した取締役が任務を怠ったものと推定する | 会社の損害の発生と額、因果関係。取締役側は任務を怠らなかったことを反証できる |
| 428条1項・2項 | 取締役が自己のためにした直接取引 | 責めに帰することができない事由によることを理由とする免責を認めず、責任の一部免除・責任限定契約の規定(425〜427条)も適用しない(総株主の同意による免除は可能) | 会社の損害の発生と額。第三者のためにした取引や間接取引には適用がない |
競業取引の損害推定で気をつけたいのは、推定されるのは相手方が得た「利益」の額であって、別会社の売上全額ではないことです。別会社の売上から原価や経費を差し引いた利益、しかもその競業取引から生じた部分が対象になりますから、別会社の決算書や取引ごとの原価資料が必要になります。承認を受けた競業取引にはこの推定が働かず、会社は損害額を自ら立証しなければなりません。利益相反取引の任務懈怠推定は、承認を受けた取引にも及びますが、損害の発生と額は会社側が立証する必要があります。承認と責任を別問題として扱うというのは、この立証構造の違いを踏まえて、どの推定が使えるかを最初に確かめるということです。
承認を欠く取引の効力
承認を欠く競業取引は、取締役や別会社と相手方との間の取引の効力に影響せず、会社は取締役に対する損害賠償で対応します。これに対して、承認を欠く直接取引・間接取引の効力は相対的です。会社と取締役の間の直接取引については、会社の側から取締役に対して無効を主張できますが、取締役の側から無効を主張することはできません(最判昭和48年12月11日民集27巻11号1529頁)。第三者が関与する取引、たとえば取締役が代表者を務める別会社との取引や、取締役の債務を第三者に対して保証した場合には、会社は、その第三者が承認のないことを知っていたことを立証しなければ無効を主張できません(前掲最大判昭和43年12月25日)。別会社の代表者が当の取締役本人であれば悪意の立証は難しくありませんが、別会社の代表者が別人の場合や、取引の相手方がさらに第三者に権利を移転している場合には、会社はその第三者の悪意を立証しなければならず(最大判昭和46年10月13日民集25巻7号900頁)、立証の壁が高くなります。
取引の効力を否定して財産を取り戻す請求と、取締役に損害を賠償させる請求は、別の請求です。両方を検討するときは、財産が戻れば損害額がその分減ることを前提に、どちらを主位にするか、両者をどう組み合わせるかを整理します。取引を無効にすると取引先との関係や会社の事業に支障が出る場合には、取引を維持したまま損害賠償だけを求める選択もあります。
会社の機会・情報を利用した場合
会社に持ち込まれた商談を役員が自分の会社で受ける、会社が調査していた土地や技術を役員個人で取得する、会社の顧客リストや原価情報を別会社で使うといった行為は、356条1項の三類型にそのまま収まらないことがあります。日本の会社法には、いわゆる会社機会の奪取を一律に禁じる明文の規定はありませんが、取締役は法令・定款・総会決議を遵守し会社のため忠実に職務を行う義務(355条)と、委任契約に基づく善管注意義務(330条、民法644条)を負っており、会社の事業と関係する機会を、会社に知らせず、会社に検討の機会を与えないまま自分や第三者に帰属させることは、これらの義務に違反すると評価されます。前掲の製パン会社の事案では、会社が買収を進めていた同業会社の株式を代表取締役が会社の資源を使いながら自ら取得し、その経営を主宰した行為が、会社の機会を奪うものとして善管注意義務・忠実義務違反とされ、取得した株式の会社への引渡しまで命じられています。
検討の要素は、その機会が会社の事業と関係するものだったか、取締役がその機会を知ったのは職務を通じてか、会社にその機会を実行する能力と意思があったか、取締役が会社に説明し会社が断念したという経過があるか、利益が誰に帰属したかです。「会社には資金がなかった」「会社は断った」という反論はよく出されますが、会社が断念したという事実は、取締役が正確な情報を会社に開示したうえでの判断であって初めて意味を持ちます。秘密として管理されている顧客リストや原価情報など、会社の営業秘密(不正競争防止法2条6項)を使った場合には、職務上その営業秘密を示された取締役が不正の利益を得る目的でそれを使用・開示する行為は不正競争に当たり(2条1項7号)、その開示を受けたことを知って取得・使用した別会社の行為も不正競争になります(同項8号)。いずれも差止め(3条)と損害賠償(4条)の対象となり、取締役個人の責任と併せて別会社そのものにも請求できます。
証拠と退任後の問題
立証に必要な資料は、会社と別会社の間の契約書、発注・受注の履歴、見積りと価格の比較資料、原価、入金の記録、社内のメールや稟議、担当者の説明、承認の議事録と開示された内容です。別会社の側の資料は会社の手元にありませんから、株主として争う場合は第18講の閲覧請求や第19講の検査役、訴訟になれば文書提出命令を組み合わせます。別会社の商業登記は役員と本店、目的を確認するのに使えますが、株主が誰かは登記からは分かりませんので、株主構成は別の資料で調べます。競業取引の損害推定を使うには別会社の利益の額が必要で、これは訴訟の中で開示を求めることになります。
取締役を退任した後の競業には356条の規制は及ばず、退任後の競業避止は、有効な合意があるか、在任中の行為が原因になっているか、営業秘密の不正使用があるかという別の枠組みで検討します(第34講)。ただし、任期満了や辞任の後も後任が選任されず権利義務取締役(346条1項)として地位が続いている間は、取締役としての義務も続きます。退任の直前に在任中の地位を利用して準備した競業は、在任中の行為として責任を問えます。
PRACTICE NOTE
承認があっても取引条件を確認する
取締役会が役員の関係会社との取引を承認していたという議事録が出てきたとき、そこで検討を止めないでください。確認するのは、承認の時点で取引の相手方、条件、役員が受ける利益が具体的に開示されていたか、当該役員が議決から外れていたか、承認された条件と実際の取引条件が一致しているか、価格や条件が同種の取引と比べて会社に不利でないか、取引後の報告がされていたかです。開示が不十分なまま得た承認は承認としての効力を欠くと評価される可能性があり、承認の要件を満たしていても、条件が不当であれば423条3項の推定のもとで責任追及ができます。
逆に、役員の関係する相手方との取引というだけで責任が生じるわけでもありません。承認を受け、条件が市場並みで、会社に損害がなければ責任は生じません。どこに問題があるのかを特定してから請求を組み立てます。
実務チェック
- 問題の取引を、競業取引、直接取引、間接取引、会社機会・情報の利用のどれに当たるかで分類し、承認の要否と根拠条文を確定する。
- 承認機関、開示された重要事実、利害関係取締役の議決除外、事後報告を議事録で確認する。株主全員の同意や一人会社の例外に当たるかも確かめる。
- 売上と利益を区別し、423条2項・3項・428条のどの推定が使えるか、会社が自ら立証すべき事項は何かを整理する。
- 取引の効力を争う請求と損害賠償請求を分け、第三者の悪意の立証可能性と事業への影響を踏まえて組み合わせる。
- 別会社側の資料の入手方法(閲覧請求、検査役、文書提出命令)を早期に計画する。
よくある質問
取締役会で承認を受けていれば、責任は生じませんか。
承認は取引を有効にする手続であって、条件の適正まで保証しません。承認を受けた利益相反取引でも、会社に損害が生じれば取引をした取締役や承認に賛成した取締役は任務懈怠が推定され、損害の発生と額を会社が立証すれば責任を問われます。開示が不十分な承認は、承認としての効力自体が争われます。
親族が経営する会社との契約は、すべて利益相反取引ですか。
親族関係だけでは決まりません。取締役自身がその会社の計算で取引をしているといえるか、すなわち取締役がその会社を実質的に支配し、その会社の利益が取締役の利益と同視できるかが基準です。当たらない場合でも、条件が会社に不利益であれば善管注意義務の問題として検討します。
競業している役員の会社の売上を、全額損害として請求できますか。
できません。承認のない競業取引について推定されるのは、その取引によって取締役または第三者が得た利益の額です。売上から原価や経費を差し引いた利益のうち、競業取引から生じた部分が対象になり、別会社の決算資料や取引ごとの原価資料が必要になります。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕330条、346条1項、355条、356条、365条、369条2項、423条、428条、831条1項3号
- 民法〔e-Gov法令検索〕108条、644条
- 不正競争防止法〔e-Gov法令検索〕2条1項7号・8号、2条6項、3条、4条
- 東京地判昭和56年3月26日判時1015号27頁製パン会社の代表取締役が、会社の進出予定地域に自ら代表を務める別会社を設立して同種の事業を営み、また会社が買収を進めていた同業会社の株式を自ら取得してその経営を主宰した行為について、競業避止義務・忠実義務違反を認めた裁判例(山崎製パン事件)
- 最判昭和45年4月23日民集24巻4号364頁取締役が代表取締役を兼ねる別会社の債務を会社が保証する行為は承認を要する取引に当たるとした判例
- 最大判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁、最大判昭和46年10月13日民集25巻7号900頁、最判昭和48年12月11日民集27巻11号1529頁承認を欠く利益相反取引について、第三者との関係では相手方(手形の第三取得者を含む)の悪意を会社が立証しなければ無効を主張できず、取締役との直接取引では会社のみが無効を主張できるとした判例
- 最判昭和49年9月26日民集28巻6号1306頁株主全員の同意がある利益相反取引には承認を要しないとした判例
- 最判昭和45年8月20日民集24巻9号1305頁取締役が株式の全部を所有し事業が実質的にその個人経営である会社と当該取締役との取引には承認を要しないとした判例
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公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日