第21講 開業コンサルタントは誰の代理人なのか― 無料コンサルの収益構造
第Ⅲ部 不動産・開業コンサル・取引業者
開業支援が無料でも、支援会社には別の収益源がある場合があります。提携業者からの紹介料、グループ会社の販売収益、自社が貸主になる場合の賃料などです。先生が何に、誰へ、いくら払う仕組みなのかを、契約全体で確認してください。
無料の支援にも、有益な実務サービスはあります。大切なのは、支援会社が誰のために、どの契約に基づいて動くのかを知ることです。「相談に乗ってくれる人」と「先生を代理して契約する権限がある人」は同じではありません。
例えば、次のような場面を考えてみてください。「開業支援は無料です。先生からは一切いただきません」
その言葉に嘘はありませんでした。支援会社に支払った金額はゼロ。物件も内装も医療機器も電子カルテも人材も、担当者がすべて段取りしてくれました。
異変に気づいたのは、勤務先に退職を申し出た後です。内装費の総額が、聞いていた話より大幅に増えている。見積書を見せてほしいと頼むと、こう返ってきました。
「あれは当社と施工会社との契約ですので、お見せできません」
1 収益はどこから出ているのか
収益の仕組みには、主に次のような形があります。複数を組み合わせている会社もあります。
一つは、紹介や販売による収益です。不動産会社、内装業者、医療機器の販売会社などから手数料を受け取ったり、グループ会社が販売を担ったりします。その負担が価格にどの程度反映されるかは取引によって異なり、手数料の全額が必ず先生に転嫁されるとは限りません。比較するときは、仕様と支払総額をそろえます。
もう一つは、支援会社が物件や設備を貸し、運転資金の貸付けまで行う形です。収益は賃料・リース料・利息などから生まれます。初期費用が低くても、長期間の支払総額や解約費用が大きくなることがあるため、購入・銀行借入れ等の方法と比較してください。
初期費用を抑えられる利点がある一方、支援会社の収益と先生の負担が連動する場面があります。利益が必ず衝突するわけではありませんが、推薦先を選ぶ理由と報酬の流れを確認しましょう。貸金業や不動産の媒介等に当たる業務には、登録・免許その他の法令上の規制もあります。「開業支援」という名称だけで適法性は判断できません。
支援契約は、内容により委任・準委任・請負などに分かれます。委任・準委任では、無償でも善良な管理者としての注意義務や報告義務が問題になります(民法644条・645条・656条)。代理権の範囲、発注の承認方法、利益相反がある取引の説明を、書面で決めておくと安心です。
2 法律は、どこまで守ってくれるのか
ここは正確に理解しておいてください。誤解が多いところです。
(1)開業のための契約は、原則として消費者契約ではない
消費者契約法2条は、事業のために契約する個人を「消費者」から除いています。したがって、医師が開業のために結ぶ契約には、原則として同法の取消し・無効の規定は使えません。ただし、救済手段が民法90条だけになるわけではありません。事実関係により、錯誤・詐欺による取消し、債務不履行や不法行為による損害賠償、解除などを検討します。医師であること自体が、私生活の契約まで消費者契約から除く理由になるわけでもありません。
(2)貸主の直接賃貸と、仲介業者の説明を区別する
宅地建物取引業法は、売買・交換や、売買・交換・貸借の代理・媒介を業として行う場合を対象としています。自ら貸主として建物を貸す行為は、それ自体では宅地建物取引業に当たりません(同法2条2号)。
支援会社が所有する区画を直接貸す場合、その賃貸行為だけでは宅建業法35条の重要事項説明義務は生じません。ただし、何を説明しなくてもよいという意味ではありません。契約前の信義則上の説明義務や、定期借家に関する事前説明義務は別に検討します。
宅建業者が賃貸借を代理・媒介する場合には、宅建業法35条に基づく重要事項説明が必要です。単なる紹介なのか、実際に媒介しているのかも確認します。貸主、仲介業者、開業支援会社がそれぞれ誰かを整理してください。
(3)説明されなかったことの責任
最高裁平成23年4月22日判決は、契約締結前に重要な情報を伝える信義則上の義務に違反した場合、不法行為責任が生じ得る一方、その後に結ばれた契約の債務不履行責任としては扱わないとしました。契約前の説明義務と、契約で引き受けた義務は区別が必要です。
ただし、すでに別の開業支援契約があり、その契約上の調査・助言義務に違反した場合まで、契約責任が否定されるわけではありません。誰が、どの契約に基づき、いつ何を説明すべきだったのかを整理します。説明資料、費用の提示日、承諾のやり取りを残してください。
3退職・採用・発注の前に、条件を整理する
開業支援をめぐる交渉には、当事者が意識しにくい非対称があります。時間です。
行政協議や工事の遅れに関する延期条項がある場合は、対象となる原因、延期の上限、費用負担、解除の条件を確認します。延期条項があるからといって、あらゆる遅れが免責されるわけではありません。一方、退職や採用の内定が進むと、先生側にも変更しにくい約束が増えます。
支援会社にも延期による負担はありますが、先生側の退職日や資金繰りが先に限界を迎えることがあります。双方の予定と費用を見える形にし、いつまでにどの条件を決めるかを合意してください。
退職や採用の判断に先立ち、費用の上限、未確定事項、遅延時の対応を整理します。すべてが完全に確定するまで準備を止めるのではなく、段階ごとに進めてよい範囲を決めることが大切です。すでにした退職の申出や内定は、自由に撤回できるとは限りません。
4 どこで判断が歪むのか
次のような場面では、条件をいったん整理する必要があります。
相見積りを断られる。指定業者を使う理由、他社を選ぶ場合の条件を聞いてください。相見積りは価格を検証する有力な手段ですが、仕様の比較や第三者による見積査定も役立ちます。
見積りの内訳が示されない。支援会社自身の仕入原価を、常に開示させられるわけではありません。ただし、先生が支払う価格、算定方法、対象となる工事・機器、追加費用の条件は合意の前に確認すべきです。実費精算の契約であれば、その根拠資料の確認も重要になります。
報酬や条件が示されていない場合は、依頼の有無、契約の成立、報酬合意及び相当額を分けて確認します。金額の明示がないことだけで、すべての支払義務が当然に消えるわけではありません。
重要な条件が、後になって出てくる。リース料の上乗せ率、契約期間が終わった後も支払が続くのかどうか、第三者への転リースの有無。これらが、発注が進み、退職が決まった後で初めて説明される。前章の時間の非対称が、ここで効いてきます。
締切りの理由が説明されない。「今週中に決めないと間に合いません」と言われたら、工程表と発注期限を確かめます。急ぐ必要がある場合も、価格や中止条件を曖昧にしたまま承諾しないでください。
5 どう使えばよいか
結論は変わりません。提案する人と、その提案をチェックする人を、別にする。
支援会社には物件探しや工程管理などを担ってもらい、契約と投資判断は、提案者から独立した専門家にも相談する方法があります。相談範囲、報酬、提案者との関係を確認し、費用と効果を比較して依頼してください。
契約前に第三者へ相談する予定を、早めに伝えておくと調整しやすくなります。相談を受け入れるかは判断材料の一つですが、その反応だけで会社の誠実さや契約の安全性までは判断できません。
6 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 支援会社に「御社はどこから収益を得ていますか」と率直に聞き、回答を記録する
- 契約書の当事者欄を見て、支援会社が貸主なのか、媒介者なのかを確認する
- 内装・機器は、支援会社の提携先以外からも見積りを取る
- 費用の全体像(内装・機器・什器・システムの総額)が一枚の紙になっているか確認する
やってはいけないこと
- 金額の提示がないまま「発注してよいか」に「大丈夫です」と答える
- 費用の上限や未確定事項、遅延時の対応を整理しないまま、退職や採用を進める
- 「消費者契約法で後から取り消せる」と考える(事業者間の契約には適用されません)
- 貸主の直接賃貸にも、仲介業者と同じ重要事項説明が当然にあると思い込む
- 内容と相互の関係を確認しないまま、複数の契約へまとめて署名する
7 よくある質問
- 「当社と施工会社の契約だから内装見積は開示できない」と言われました。
- 仕入原価を当然に開示させられるとは限りませんが、先生の負担額・算定方法・仕様は合意前に確認します。実費精算なら証憑の確認方法も決めてください。開示がないまま新しい負担を承諾する必要はありません。ただし、すでに成立した契約上の支払義務まで消えるわけではありません。
- 支援会社が業者から手数料を受け取っていました。返してもらえますか。
- 手数料の受領それ自体が直ちに違法となるわけではなく、契約書の記載、説明の内容、価格が相場からどれだけ乖離しているかによって評価が変わります。契約書、見積書、当時のやり取りをそろえてご相談ください。
- 支援会社を切りたいのですが、契約書に「中途解約は不可」とあります。
- まず、契約が委任・準委任・請負などのどれに当たるかを確認します。委任・準委任には原則として各当事者が解除できる規定がありますが、特約の効力、解除の時期や理由による賠償、既履行分の精算は別です(民法651条・656条)。リースや賃貸借まで同じ扱いにはならないため、一式を確認してから通知してください。
- 誠実な会社を見分ける方法はありますか。
- 収益源と提案理由を説明するか、比較検討の機会を確保するか、契約条件を書面で示すかを確認してください。第三者の確認を受け入れる姿勢も参考になりますが、一つの反応だけで良否を決めず、業務実績、契約内容、免許・登録が必要な業務の適法性を合わせて判断します。
主な法令・公的資料
- 民法
契約、委任、責任、相続・財産分与。768条の改正を含む。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索:借地借家法
建物賃貸借の更新・解約申入れ・借賃増減請求等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090 - e-Gov法令検索:消費者契約法
2条。事業目的の契約と消費者の定義。
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000061 - e-Gov法令検索:宅地建物取引業法
2条・35条。直接賃貸と代理・媒介、重要事項説明。
https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176 - 最高裁判所:平成23年4月22日第二小法廷判決
平成20年(受)1940号。契約締結前の説明義務と契約責任。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-81268.pdf