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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第89講】

保健所・都道府県の立入検査にどう備えるか

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第89講 保健所・都道府県の立入検査にどう備えるか

第Ⅸ部 診療報酬・指導監査・行政対応

保健所や都道府県が行う立入検査(医療監視)は、厚生局の保険診療に関する指導・監査とは、根拠や目的が異なります。医療法上の人員、構造設備、安全管理、記録の保存などを確認します。診療録は保険請求の監査だけで見る資料ではなく、立入検査でも管理や診療体制等を確かめるために確認されることがあります。

病院では原則年1回の検査が行われ、不適合があれば改善を求められます。検査拒否や虚偽報告には罰則があり、法令上の条件を満たす場合には使用制限、改善命令、業務停止、管理者変更、開設許可取消し等もあり得ます。これらは必ず順番に進む段階ではありません。この講では、確認項目と日頃の備えを整理します。

例えば、保健所から立入検査の通知が届きました。事前提出書類とチェックリストが付いています。事務長は「去年の書類を使えそうです」と言いますが、院長は、様式だけでなく今年の通知と現在の実態を照合しようと提案しました。オンライン診療やサイバー対策も、自院に当てはまる項目を確かめる必要があります。

1 立入検査とは何か

医療法25条1項は、都道府県知事、保健所設置市の市長、特別区の区長が、必要な報告を命じ、病院・診療所・助産所・オンライン診療受診施設に立ち入り、人員、清潔保持、構造設備、診療録・帳簿等を検査できると定めています。病院等の開設者・管理者や受診施設の設置者が対象です。この職権を行う職員は「医療監視員」とされます(26条)。

項目内容
根拠医療法25条1項。定期検査に限らず必要に応じて行う。法令違反や著しく不適正な運営が疑われる場合には、25条2項により事務所等への立入りや書類提出命令もできる。
実施主体都道府県、保健所設置市、特別区。特定機能病院・臨床研究中核病院には、厚生労働大臣による25条3項等の監督もある。
対象と頻度病院は要綱上、原則年1回。診療所は検査の必要性に基づいて適宜対応する。自治体ごとの対象・頻度・自主点検の案内を確認する。
実施方法厚生労働省の立入検査要綱(令和8年6月改訂)と年度の実施通知を参考に行う。自院に届いた通知・様式に従い、事前資料、書類、現場、聞き取りによる確認に備える。
結果不適合・指導事項があれば、根拠法令と理由を文書で通知し、期限を定めて改善計画書の提出を求める。改善状況は継続的に把握される。

令和8年度の実施通知は令和8年6月12日付です。同日付で立入検査要綱も改訂されています。これらは自治体への技術的助言であり、具体的な実施方法は所管自治体の通知でも確認します。本講4で主な留意点を扱います。

2 厚生局の指導・監査との違い

第Ⅸ部でここまで扱ってきたのは、健康保険法に基づく厚生局の指導・監査です。立入検査は、それとは別の系統です。両者を混同すると、備え方を誤ります。

比較項目内容
根拠法

保健所・都道府県の立入検査:医療法25条

厚生局の指導・監査:健康保険法73条(指導)・78条(監査)

見るもの

保健所・都道府県の立入検査:医療法上の人員・構造設備・管理体制。医療安全、院内感染対策、医薬品・医療機器の管理、診療録の保存、掲示、広告、サイバー対策など

厚生局の指導・監査:保険診療の内容と診療報酬請求。カルテの記載と請求の整合、算定要件、施設基準

結果

保健所・都道府県の立入検査:不適合事項等の通知と改善への対応。法定要件を満たす場合は、使用制限、改善・業務停止・管理者変更等の命令、許可取消し等。必ず順番に進むものではない。

厚生局の指導・監査:個別指導の結果は概ね妥当・経過観察・再指導・要監査。監査では事実に応じて取消処分・戒告・注意等を判断し、必要な返還にも対応する。

金銭

保健所・都道府県の立入検査:検査自体は診療報酬の返還を求める手続ではない。ただし、改善費用や罰則、別の手続による返還等は問題になり得る。

厚生局の指導・監査:指導等に伴う自主返還、監査後の返還等。不正の場合には法定要件により加算金が課され得る。

両者は連携することがあります。令和8年度の実施通知は、人員配置標準を満たしていない場合、必要に応じて地方厚生局にも情報提供するよう求めています。診療報酬上必要な減額等をしていなければ、請求の適正性も問題になります。ただし、医療法上の標準と施設基準は同じではありません。対象期間、判定方法、例外を確かめて判断します。

3 何を見られるのか

立入検査要綱の第1表・第2表に沿って、主な確認項目を経営者の目線で整理します。自治体ごとに事前提出書類とチェックリストの様式がありますので、実際にはそれに従ってください。

分野主な確認事項
人員医師・看護師等の員数、標準の適用と算定方法。病院の宿直配置と許可等の例外。管理者が職責を果たせる体制か、兼任に必要な許可等があるか(医療法10条・12条等)。
構造設備診察室・処置室等の施設、清潔保持、換気・採光・防火・避難。医療機器の点検記録。
医療安全安全管理の指針、職員研修(年2回程度等)、報告・改善の体制。病院・有床診療所等の委員会、医薬品・医療機器の安全管理責任者、手順書や保守点検等。施設の種類に応じた要件と医療事故調査制度への対応を確認する。
院内感染対策感染対策の指針、研修、感染発生時の対応。委員会の設置等は施設の種類に応じた要件を確認する。
医薬品毒薬・劇薬・麻薬・向精神薬の保管と管理、帳簿。
放射線エックス線装置等の届出、放射線防護、被ばく線量管理、診療用放射線の安全管理体制。
診療録・帳簿診療録の5年保存(医師法24条)、その他の諸記録の保存、電子保存の要件。
掲示・広告医療法14条の2の院内掲示(管理者氏名、診療医師氏名、診療日・時間等)。広告・ウェブサイトが医療広告ガイドラインに適合しているか(第91講)。
業務委託検体検査、滅菌、給食、清掃等の委託先と業務の基準適合(医療法15条の3)。院内で実施する検体検査の精度管理等は15条の2も確認する。
情報・サイバー医療法施行規則14条2項に基づくサイバーセキュリティ確保の措置。厚生労働省のチェックリスト(令和8年度版)による確認。
防災消防計画、避難訓練、非常用電源、災害時の医療機関基本情報の入力状況。
その他医療機能情報の報告、病床機能報告、医師の労働時間管理(追加的健康確保措置)、無資格者による医療行為がないこと、開設者の非営利性。

管理者は、医療法15条1項により、従業者を監督し、医療機関の管理・運営に必要な注意を払う責務を負います。担当部署に任せる場合も、報告を受けて問題に対応できる仕組みが必要です。健康保険法上の管理者の責務もありますが、根拠と要件を分けて確認します(第87講)。

4 令和8年度に留意すべき点

令和8年6月12日付の実施通知と、その後に公表されたサイバー対策資料を踏まえ、主な点を挙げます。すべてが令和8年度に新設された義務という意味ではありません。施設の種類、施行日と経過措置を確認します。

医療安全の体制

令和8年3月31日付で、医療法施行規則の改正に伴う留意事項と、病院等の医療安全確保に関する通知が出ています。これらの内容を反映する立入検査要綱等の改訂は令和9年度の予定とされ、令和8年度は必要に応じて通知の内容が周知されます。死亡・死産事例から医療事故調査制度の対象を判断する手順と記録も点検してください(第74講)。また、一部の医療機関の管理者等に医療事故対応の研修受講を求める新規定は、令和11年4月1日施行とされています。現在の取組と、将来の施行に向けた準備を分けて進めます。

サイバーセキュリティ

医療法施行規則14条2項は、管理者にサイバーセキュリティ確保のための必要な措置を求めています。令和8年度は、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版と、医療機関・薬局共通のチェックリストが公表されています。責任者、機器台帳、更新、認証、ログ、バックアップ、障害時の連絡・事業継続等を、委託先と役割を分けて点検します。各項目の対応時期や対象外の扱いも確認してください。

オンライン診療

令和8年4月施行の医療法改正でオンライン診療の法制化が行われ、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」も令和8年4月に改訂されました。立入検査は、病院・診療所だけでなくオンライン診療受診施設も対象に含めて行われ、自由診療の場合も含めて、チェックリストで基準の遵守が確認されます(第98講)。

美容医療・自由診療のインフォームド・コンセント

自由診療での説明不足によるトラブルが多いことを踏まえ、令和6年3月の医政局長通知に基づく説明用資材の周知と遵守が求められます。あわせて、令和7年8月15日付「美容医療に関する取扱いについて」(医政発0815第21号)が参照通知に加わりました。

無資格者による医療行為

実施通知では、コンタクトレンズ診療における管理者の勤務実態、無資格者によるエックス線照射、医療機器業者の立会い等も扱っています。法令違反や著しく不適正な運営が疑われる場合には、25条2項による調査もあり得ます。管理者の名義と実態が一致しているか、日常から確認します(第9講)。

広告

医療広告ガイドラインは令和8年3月30日に改正されました。厚生労働省の委託事業でウェブサイトの監視が行われており、指導を受けても1年以上改善しない長期未改善事例については、対応期限を定めた対応が求められます。立入検査の際に違反の疑いがある広告を発見した場合も指導の対象です。

外来医師過多区域と開設者の確認

令和8年4月から始まった外来医師過多区域の制度(第6講)に関し、要請等の対象となって新規開設した無床診療所については、地域外来医療の提供状況が確認されます。また、開設者が実質的に運営の責任主体でなくなっているのに廃止届を出さず、営利法人等が実質的に開設・経営している状態がないかも、従来から確認事項です(第Ⅲ部)。

5 備え方

前年の指摘から始める

まず、前回の指摘事項と提出した改善計画書を読み直します。改善した状態が続いているか、再発した場合は原因が何かを確かめてください。同じ指摘を受けたことだけで過去の報告が虚偽と決まるわけではありませんが、改善の経過を記録で説明できるようにします。

チェックリストで自主点検する

所管自治体の事前提出書類とチェックリストを使い、記入内容と実態を照合します。これらに載っていない事項も、必要に応じて確認されることがあります。指針や委員会の有無だけでなく、周知、研修、議事録、改善後の運用まで点検します。

当日の対応

医療監視員は身分証を携帯し、求めがあれば提示します(25条5項で準用する6条の8第3項)。検査は犯罪捜査のためのものではなく(同6条の8第4項)、質問には事実を答え、わからないことは確認して後日回答します。書類を後から作って「以前からあった」と説明することは、虚偽の報告に当たりえます。監査と同じ原則です。

指摘を受けたら

不適合・指導事項は文書で通知され、改善計画書の提出を求められます。期限内に、改善の内容・時期・方法を具体的に記載し、その後、実際に改善したことを記録に残してください。改善が困難な事項(構造設備や人員配置)は、その理由と代替措置、達成見込みを正直に書き、担当者と相談します。

6 検査を軽く見たときに何が起きるか

問題に応じて行われる主な監督措置
項目内容
報告・検査必要な報告や立入検査等により事実を確かめる(25条)。
施設の危険等要件に応じ、使用制限・禁止、修繕・改築を命じる(24条)。
法令違反等必要な措置を命じ、従わない場合は業務の停止を命じ得る(24条の2)。
管理者の問題犯罪・医事の不正、管理への不適性等があれば管理者変更を命じ得る(28条)。
開設者等の問題命令違反や犯罪・医事の不正等、法定要件に応じ許可取消し・閉鎖を命じ得る(29条)。

各措置には、それぞれ法律上の要件があります。検査拒否等の罰則と、改善を求める行政上の命令も区別します。

  • 罰則。25条1〜4項に基づく報告・書類提出を怠り、虚偽報告をし、又は同条1〜3項の検査を拒み・妨げ・忌避した場合は、20万円以下の罰金の対象となる(89条2号)。法人等の業務に関する違反には両罰規定もある(90条)。
  • 使用制限・修繕命令 清潔を欠く、構造設備が省令に違反する、衛生上有害・保安上危険なときは、使用の制限・禁止、修繕・改築の命令(24条1項)。
  • 改善命令・業務停止。法令等に違反し、又は運営が著しく適正を欠く場合に、必要な措置を命じ得る(24条の2第1項。人員等・構造設備に関する別規定の適用場面を除く)。この命令に従わなければ業務の全部又は一部の停止を命じ得る(同条2項)。
  • 管理者の変更命令 管理者に犯罪や医事に関する不正行為があり、または管理をなすのに適しないと認めるときは、開設者に対する管理者変更命令(28条)。
  • 開設許可取消し・閉鎖命令。24条1項・28条の命令等への違反、24条の2第2項の業務停止命令への違反、開設者等の犯罪・医事に関する不正等、29条1項の要件に該当するときに問題となる。

24条の使用制限等、28条の管理者変更、29条1項の許可取消し・閉鎖等、87条3号に列挙された命令・処分への違反には、6か月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が定められています。すべての指摘や命令への違反に、この罰則が一律に適用されるわけではありません。医療法人には、63条の報告徴収・立入検査、64条の措置命令・業務停止命令・役員解任勧告等の制度もあります。

指摘を受けたら、その根拠、期限、改善方法を整理します。危険が大きい場合や、犯罪・医事に関する不正がある場合には、軽い指導から順番に進むとは限りません。厚生局への情報提供等により、保険診療に関する手続が並行することもあります。

7 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 前年の立入検査の指摘事項と改善計画書を読み直し、改善が維持されているかを確認する
  • 自治体のチェックリスト(令和8年度版)を入手し、サイバー対策・オンライン診療・管理者責務の項目を自主点検する
  • 医療安全・院内感染の指針、研修記録、委員会議事録が実際に存在し、日付が続いているかを確認する
  • 院内掲示(医療法14条の2)と、ウェブサイトの広告表現を点検する

やってはいけないこと

  • 「去年と同じ」で事前提出書類を作る
  • 検査の直前に指針や記録を作り、以前からあったように装う
  • 検査を拒否する、監視員の質問に虚偽の答弁をする
  • 改善計画書に書いたことを実行しないまま翌年を迎える

8 よくある質問

無床診療所です。立入検査は来るのですか。
診療所も法25条の対象です。病院は要綱上原則年1回ですが、診療所は必要性に応じて対応するとされています。自治体の自主点検や実施案内に従って備えてください。通報等で問題が疑われた場合には、定期の予定とは別に検査が行われることもあります。
立入検査で「管理者が常勤していない」と指摘されました。何が問題ですか。
勤務・連絡・監督の実態を示し、指摘の根拠を確認します。開設者が管理者になれる者なら、原則自ら管理し、他の者に管理させるには許可が必要です。他施設の管理を兼ねる場合も、法12条2項の条件と許可があります。不在だけで無資格診療や名義貸しと断定はできませんが、実際に管理できない体制を放置してはいけません(第9講)。
指摘された構造設備の改修に費用がかかり、すぐには対応できません。
改修内容、費用、時期、それまでの安全確保の方法を具体化し、担当部署に相談します。計画を出せば必ず猶予されるわけではありません。危険の程度によっては使用制限等が必要になるため、安全を確保できない部分の使用を続けないことが大切です。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・参考資料

  1. 医療法

    開設・管理者、医療安全、立入検査・監督、医療法人の役員資格・機関等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    医療事故調査(1条の10の2〜4)、管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 医師法

    4条の相対的欠格、7条の戒告・医業停止・免許取消しと手続、7条の2の再教育等。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

  4. 厚生労働省:医療情報システム安全管理ガイドライン第7.0版

    2026年6月改訂の第7.0版。

    https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html

  5. 厚生労働省:指導大綱・監査要綱

    令和8年3月30日改正。指導の選定・出席者・結果、監査の選定・措置・原則5年間の返還等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/001685596.pdf
  6. 厚生労働省:医療法に基づく立入検査要綱(令和8年6月)

    令和8年6月12日医政発0612第9号。対象、検査方法、改善、施設表・検査表。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711282.pdf
  7. 厚生労働省:令和8年度の医療法に基づく立入検査の実施通知

    令和8年6月12日医政発0612第10号。医療安全、オンライン診療、広告、人員配置、外来医師過多区域等。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001711283.pdf
  8. 厚生労働省:令和8年度 医療機関・薬局のサイバー対策チェックリスト

    責任者、情報システムの管理・運用、事故への備え、規程等。項目ごとの対応時期・対象を含む。

    https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001716185.pdf

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