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『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第3講】

脱退しても責任は残る― 加入前の債務、登記後2年の意味、個人保証 ―

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第3講】

03第Ⅰ部 構造編第3講

脱退しても責任は残る
― 加入前の債務、登記後2年の意味、個人保証 ―

例えば、「名前だけでよい」と言われて労務出資で社員となり、その後、法人に消費税の滞納が生じた場面を考えます。経営に関与していなかったという事情だけで、社員の責任を免れられるでしょうか。

社員の責任は出資額に限定されず、加入前の債務にも及びます。脱退登記後2年の経過で一律に免責されるわけでもありません。法人への請求、社員としての責任、個人保証、内部での負担割合を分けて確認します。

1 「補充的」無限連帯責任の仕組み

税理士法人の社員の責任は、税理士法48条の21第1項が準用する会社法580条1項に定められています。社労士法人については、社労士法25条の15の3が同じ内容を固有の条文として書いています。条文の構造は次のとおりです。

法人の財産をもって債務を完済できないとき、または法人財産に対する強制執行が功を奏しなかったとき、各社員は連帯して弁済の責任を負う。ただし後者の場合、社員が「法人に資力があり、かつ執行が容易であること」を証明したときは、この限りでない。

ここには3つの性質が含まれています。

無限責任――責任の上限は出資額ではなく、社員個人の全財産です。株式会社の株主が出資額を失うだけで済むのとは、まったく違います。

連帯責任――債権者は、社員のうち誰に対しても、債務の全額を請求できます。「私の出資割合は1割だから1割だけ」という主張は、債権者に対しては通りません。払った社員が他の社員に求償するのは、あくまで社員同士の内部の問題です。

補充性――ただし、まず法人の財産が引き当てになります。法人に十分な財産があるうちは、債権者がいきなり社員個人に請求することはできません。もっとも、これは「法人が債務超過になるまで安心」という意味ではありません。法人財産で完済できない状態になった瞬間に、不足分の全額が社員個人に降りてきます。

数字で確かめておきます。社員2名(出資は各500万円)の税理士法人が、開業時の借入れ2,000万円のうち1,200万円を残したまま業務が回らなくなり、法人財産を処分しても700万円が返せないとします。金融機関は、この700万円の全額を、どちらの社員に対しても請求できます。仮に一方が700万円を全額払えば、その社員は他方に対して、損益分配の割合(定款に定めがなければ出資の価額の割合。会社法622条の準用)に従って350万円を求償することになります。しかし相手に資力がなければ、求償は絵に描いた餅です。連帯責任の重さは、相手の懐具合に左右されるところにあります。

そして、この責任は社員の属性を問いません。代表社員であるか否か、出資が金銭か労務か、経営に関与しているか否か、いずれも関係がありません。冒頭の「名前だけの社員」が責任を免れないのは、この構造によります(出資なし社員・労務出資の問題は補講②で詳しく扱います)。

2 時間軸で見る責任 ― 加入前の債務と、登記後2年の意味

無限責任を「今、社員である間だけの話」と考えていると、二重に足をすくわれます。責任は、社員でいる期間の前にも後にも延びています。

時点責任の確認
加入加入前の債務を含め、法人財務と保証を確認
脱退から登記まで612条は脱退登記前に生じた債務を対象とする
脱退登記後2年内債権者からの請求・予告の有無を記録
2年経過後請求・予告がなかった債権者に対する責任の消滅。特則・保証は別

図1 加入前の債務と、脱退登記後の請求・請求予告

加入前の債務にも責任を負う(会社法605条の準用)

法人に新たに加入した社員は、加入前に法人が負っていた債務についても、他の社員と同じ責任を負います。開業時の借入れ、リース債務、加入前の申告ミスによる損害賠償債務。これらはすべて、加入した瞬間に新社員の背中に載ります。

この規定は、内部紛争の後始末にも関係します。脱退した社員の後任として新しい社員を迎えるとき、あるいは承継やM&Aで社員を入れ替えるとき、新社員が引き受けるのは「これからの経営」だけではなく「これまでの債務」でもあります。過去の申告内容や簿外債務の確認が、社員加入の前提になる理由です(第27講)。

脱退登記後2年で一律に免責されるわけではない(会社法612条)

会社法612条1項は、脱退登記前に生じた法人の債務について、脱退社員が従前の責任を負うと定めます。2項により、その責任が消滅するのは、脱退登記後2年以内に請求又は請求の予告をしなかった債権者に対してです。2年以内に請求等を受けた債務は、2年経過だけでは免責されず、一般の消滅時効等を別に検討します。

起算点は脱退の登記日であり、責任の対象も登記前に生じた債務です。脱退合意だけで登記を放置しないことが重要です。社労士法人では25条の15の3第6項が612条を準用しますが、同条4項の紛争解決手続代理業務に関する依頼者への債務には別の特則があります。個別の連帯保証契約も612条によって当然に終了しません。

脱退後の責任については、債権者ごとの債務発生原因・登記日・請求等の到達日を一覧にし、保証契約と分けて管理します。内部の免責合意は、債権者の同意なしにその請求権を失わせるものではありません。

3 税金はとくに怖い ― 第二次納税義務

法人の債務のうち、実務でもっとも厳しく社員個人に降りてくるのが税金です。国税徴収法33条は、合名会社・合資会社と並べて税理士法人・社会保険労務士法人などの士業法人を条文で明文列挙し、法人が国税を滞納して、その財産に滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められるときは、その社員が第二次納税義務を負うと定めています。通達の解釈を待つまでもなく、条文そのものが士業法人の社員を名指ししているのです。地方税にも同じ仕組みがあります。

手続の流れも民事の債権者とは違います。税務署は、法人の財産に滞納処分をしてもなお不足すると認めれば、社員個人に対して納付通知書を送り、納付期限を過ぎれば社員個人の財産に滞納処分を進めることができます。

民事の債権者が強制執行するには、判決や執行認諾文言のある公正証書等の債務名義が必要です。税務署による第二次納税義務の告知と滞納処分はこれと異なる行政上の手続です。納付通知の対象となる税、要件、期限を確認します。

士業法人の場合、法人自身の消費税・源泉所得税・法人税に加え、社会保険料の滞納も、法人財産で足りなければ社員の無限責任の対象になります。共同経営者との対立で経理が混乱し、納付が滞る――紛争の最中に起こりがちな事態が、そのまま社員個人の財産問題につながります。

4 税賠リスクと、保険の穴

士業法人の債務のもうひとつの大きな源泉が、業務上のミスに対する損害賠償、いわゆる税賠・社労士賠です。申告ミスによる過大納付や加算税の負担、届出漏れによる助成金の不支給、こうした損害が顧客から法人に請求され、法人財産で賄えなければ、社員個人の無限責任に及びます。

賠償責任保険は、加入の有無だけでなく、被保険者、対象業務、保険期間、事故・請求の通知時期、限度額、免責事項を確認します。払戻しを終えた後に過去の業務の賠償請求が判明する可能性も、資金計画に反映します。

こんな場面を考えてみてください。共同経営者が担当していた顧問先について、脱退の翌年に税務調査が入り、消費税の届出漏れによる過大納付が判明した。顧問先は法人に対して1,500万円の損害賠償を求めてきた。法人の保険で填補されたのは一部で、残りは法人の財産から支払わざるを得ない。ところが法人の預金は、脱退した相手への持分の払戻しでほとんど残っていない――。

相手が担当した案件でも、法人の債務であれば残る社員の責任が問題になります。脱退者の責任は612条の要件、社労士法人の特則、保証契約を分けて確認します。合意書では、過去案件の通知、資料提供、防御への協力、内部負担、保険金の充当と求償の留保を定めます。

5 資格を失うまでの連鎖

無限責任が現実に発動した場合、失うのはお金だけではありません。税理士法4条2号は「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」を欠格条項に掲げ、これに該当すると税理士登録は抹消されます(同法26条1項)。社労士法5条2号にも同じ欠格事由があります。

つまり、法人の債務→社員個人への請求→支払不能→個人破産→欠格→登録抹消、という連鎖が成り立ちます。資格者にとって、無限責任は財産の問題であると同時に、職業を続けられるかどうかの問題です。破産手続の中で免責を得れば復権しますが、その間の業務停止と信用の毀損は取り返しがつきません。

この連鎖は、共同経営の解消を考えるときの「本当のリスク」を教えてくれます。相手との対立で法人の経営が傾けば、相手だけでなく自分も同じ連鎖の上に立っている。残る側が交渉で強気に出られる場面でも、法人を壊してしまえば自分の資格まで危うくなる。この冷静な損得勘定が、以後の講で交渉戦略を考えるときの前提になります。

6 残る側はこの責任をどう使い、どう守るか

交渉材料として

脱退は過去の債務や保証からの自動的な解放ではありません。債権者への責任は612条の請求・予告の要件を踏まえて説明し、債務超過による内部清算の支払義務とは分けて計算します(第14講)。同じ法人債務を、持分評価で控除したうえで理由なく再控除しないことも必要です。

残る側は、この2点を踏まえて、連帯保証の扱いと持分の計算をセットで交渉に載せることができます。「借入れの連帯保証を外してほしいなら、清算金の計算はこうなる」「担当していた顧問先を持って行くなら、その分の借入れ負担はこうなる」という組み立てです。無限責任は、相手にとっても逃げられない現実であることを、条文とともに冷静に示すのが効果的です。

自衛として

同時に、残る側は自分の責任の輪郭も把握しておく必要があります。確認すべきは次の3点です。

  • 法人の債務の全体像――借入れ、リース、未払税金・社会保険料、係争中または係争が予想される賠償請求。相手の担当案件に起因するものも含めて洗い出す。
  • 連帯保証の状況――法人の借入れに社員個人がどう保証しているか。脱退する相手の保証をどう処理するか(金融機関との協議が必要になる)。
  • 相手の在任中の行為で法人が負った債務――相手の無断受任・私的流用・業務上のミスに起因する債務があれば、相手への求償や損害賠償請求の準備をしておく(第16講の相殺の原資にもなる)。

とくに3点目は、脱退合意書で清算条項を入れる前に済ませておかなければなりません。「本合意書に定めるほか、相互に債権債務がないことを確認する」という一文に安易に応じると、後から判明した相手起因の債務について、求償の道が閉ざされます。

残る側の視点で押さえておくこと

法人債務の全体像、個人保証、脱退登記と債権者の請求等を先に確認します。そのうえで払戻し、金融機関の保証解除、過去案件の内部負担を協議します。「辞めても2年」「2年で免責」という一言では正確に説明できません。

次回 第4講「2人法人の宿命 ― 『解散への6か月カウントダウン』と、それを止める急場凌ぎの策」では、税理士法人にだけ埋め込まれた時限装置と、それを止めるための現実的な方法を、所要日数とともに解説します。


【本講で引用した主な法令・統計】税理士法4条・26条・48条の21/社会保険労務士法5条・25条の15の3/会社法580条・605条・612条/国税徴収法33条/株式会社日税連保険サービス「税理士職業賠償責任保険」加入状況(2021年7月1日現在)

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