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『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第4講】

2人法人の宿命 ― デッドロックと「解散への6か月カウントダウン」

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第4講】

04第Ⅰ部 構造編第4講

2人法人の宿命
― 「解散への6か月カウントダウン」と、それを止める急場凌ぎの策 ―

共同経営者との交渉に勝って、相手が法人を去った。顧問先の大半は残り、清算金も想定の範囲で収まった。ところが翌日から、別の時計が動き始めます。税理士法人は、社員が1人になった日から6か月以内に2人以上に戻らなければ、法律上当然に解散するからです。しかも、一度解散した法人を元に戻す制度はありません。

税理士法人の社員数不足と、残る側が採り得る加入・合併・引継ぎを整理します。候補者の資格、意思、業務体制と、登録・登記等に必要な手続を確認して日程を組みます。弁護士を迎える場合も、税理士登録と実際の業務執行が必要です。

1 2人法人は「1人の拒否」で止まる ― 総社員の同意という壁

定款変更は、定款に別段の定めがなければ総社員の同意によります(税理士法48条の13、社労士法25条の14)。合併には総社員の同意が必要です。他方、業務執行・決定方法は各士業法と定款・合意を確認します。会社法590条は両法人に準用されていません。すべての事項を一括して「全員一致」と考えず、対象事項と定款を確認します。

2名法人では、全員同意を要する事項や社員の過半数を要する事項で双方の意見が割れると、決定できません。ただし、既に与えられた権限による執行や通常業務がすべて停止するわけではなく、業務執行と代表権を区別して確認します。

株式会社なら、過半数の株式を持つ側が最終的には決められます。しかし合名会社型の法人では、出資割合がどれほど偏っていても、この壁は崩れません。出資9対1でも、1割の社員が反対すれば定款は変えられない。第5講で扱う「出資と権限の非対称」は、ここにも顔を出します。

デッドロックそのものは、税理士法人にも社労士法人にも共通します。問題は、その状態で相手が「では辞める」と言ったときに何が起きるかです。ここから先が、両者で分かれます。

2 時限装置の条文 ― 税理士法48条の18第2項

税理士法人は、税理士が「共同して」設立する法人とされ(税理士法48条の2、48条の8第1項)、社員が2人以上でなければ設立できません。そして設立後についても、48条の18第2項が次のように定めています。

税理士法人は、前項の規定による場合のほか、社員が一人になり、そのなつた日から引き続き六月間その社員が二人以上にならなかつた場合においても、その六月を経過した時に解散する。

条文の読み方を3点、確認しておきます。

第一に、起算点は「社員が一人になった日」です。相手の脱退が効力を生じた日、相手が死亡した日、相手の税理士登録が抹消された日。脱退の登記の日ではありません。脱退合意の効力発生日を何日にするかが、そのまま6か月の起算点になります。

第二に、解散は「当然に」生じます。誰かが解散を決議するわけでも、監督官庁が命じるわけでもなく、6か月が経過した瞬間に法律上解散します。気づかないまま期限を過ぎていた、という事態があり得ます。

6か月の期間内に、資格を備えた後任の加入を実際に有効とし、社員が2名以上になることが必要です。単に加入予定を決めたり、登記だけを用意したりすることでは足りません。社員の業務執行義務、事務所ごとの常駐義務も別途満たさなければなりません。

これが、税理士法人の残る側にとっての「もうひとつの時計」です。相手との交渉に勝つことと、法人を存続させることは、別の問題です。

3 社労士法人にはこの装置がない ― 一人法人化の年表

社労士法人は、平成26年法律第116号による改正により、平成28年1月1日から社員1名で設立・存続できる制度になりました。社員の欠亡は25条の22第1項7号の解散事由ですが、2名から1名になることだけではこれに当たりません。代表者、担当者、資格業務、電子申請等の変更は別途処理します。

士業法人全体を見渡すと、社員1人での法人が認められる方向に法改正が進んできました。

法人の種類 社員1人での法人 根拠・時期
弁護士法人可平成13年の制度創設当初から1人で設立可
社労士法人可平成26年法律第116号、平成28年1月1日施行
司法書士法人・土地家屋調査士法人可令和元年法律第29号、令和2年8月1日施行
行政書士法人可令和元年法律第61号、令和3年6月4日施行
弁理士法人可令和3年法律第42号、令和4年4月1日施行(特許業務法人から名称変更)
税理士法人不可2人以上で設立。1人になって6か月経過で解散(税理士法48条の18第2項)
監査法人不可公認会計士である社員5人以上で設立(公認会計士法34条の7第1項)。4人以下の状態が6か月続くと解散(同法34条の18第2項)

税理士法人と監査法人だけが、複数人を維持し続けなければならない法人として残っています。令和4年の税理士法改正でもこの点は変わらず、日税連の「税理士法人の手引」(令和5年5月版)も、社員が2人以上必要であることに変わりはないと明記しています。

社労士法人では、残る社員が適法に業務を続けられるなら1名でも存続できます。ただし、脱退者が支店の常駐社員や唯一の特定社員であった場合、担当業務・事務所をそのまま維持できるとは限りません。払戻資金と引継ぎの問題も残ります。

4 社員数を維持する4つの方法と、期間の確認

以下の期間は一律には見積もれません。資格登録を要するか、本人の合意があるか、加入・合併の法定手続に何日必要かを、候補ごとに確認します。

選択肢期限までに必要なこと
登録済み資格者の加入本人の意思、社員資格、定款等と加入の効力を確認
新規登録を経る加入所属予定会の締切・審査・補正を確認し、登録後に加入
合併合意、債権者保護、登記等の法定手続を完了
合意による脱退日の調整後任加入との条件、最終期限、条件不成就時の処理を明記

図1 社員数維持の選択肢と確認すべき条件

策① 既に登録している所属税理士を社員に迎える

税理士登録済みの職員を迎える場合、新規登録の審査は不要です。ただし、社員資格、本人の加入合意、定款変更と出資等を整え、加入の効力発生日を確定します。社員加入の効力を登記によって初めて生じるものと扱わず、効力が生じた変更について期限内に登記・届出を行います(第11講)。

ただし、昇格する側の負担を忘れてはいけません。社員になった瞬間から、その税理士は法人の債務について無限連帯責任を負い、加入前の債務にも責任が及びます(第3講)。国税徴収法33条の第二次納税義務の対象にもなります。「頭数のために名前を貸してほしい」という頼み方は、相手の人生に関わる要求です。定款の払戻条項、法人の借入れと保証の状況、脱退の条件を開示したうえで、本人が納得して引き受けられるかどうか。この説明を省くと、後になって昇格した社員との間で第2の内部紛争が始まります。

策② 弁護士等の税理士登録と加入を進める

勤務税理士がいない場合に、業界でときどき語られるのがこの方法です。法的な仕組みを確認しておきます。

弁護士は、税理士試験を受けることなく、実務経験も研修も要せずに、税理士となる資格を持っています(税理士法3条1項3号)。開業している税理士を社員に迎える場合、その税理士は自分の事務所を畳まなければなりません(税理士法40条4項は、税理士法人の社員が税理士業務を行うための事務所を設けることを禁じています)。弁護士は法律事務所を持っていても税理士事務所を持っているわけではないので、この障害がありません。頭数の補充要員として弁護士が選ばれる理由は、ここにあります。

しかし、資格があることと社員になれることは別です。税理士法人の社員は「税理士でなければならない」(48条の4第1項)とされており、ここでいう税理士は税理士名簿に登録された者を指します(18条)。弁護士には、所属弁護士会を経て国税局長に通知することで登録なしに税理士業務を行える「通知弁護士」の制度がありますが(51条1項)、51条2項が通知弁護士を税理士とみなす対象条文には、48条の4は含まれていません。つまり、通知弁護士のままでは税理士法人の社員になれず、正規の税理士登録が必要です。

新たな税理士登録には申請書類の準備、所属予定の税理士会での調査、日税連での審査等が必要です。受付締切、調査日程、補正の見込み、登録見込日をその会に確認し、6か月の解散期限から逆算します。「2.5〜4か月なら必ず間に合う」という日数保証にはできません。登録前の資格保有者を社員数に数えないことが要点です。

引き受ける弁護士側の負担も、策①と同じです。無限連帯責任、第二次納税義務、出資(定款の絶対的記載事項なので、金銭・労務のいずれかで必ず定めます)、税理士会の会費。そして、その弁護士がいずれ脱退すれば、6か月の時計はもう一度動き出します。この策は、あくまで次の本格的な後任を探すまでの時間稼ぎです。

社員全員の業務執行義務(48条の11)と、各事務所にその所在地の税理士会会員である社員を常駐させる義務(48条の12)は別です。国税庁「税理士制度Q&A」問7−8は、常駐をその事務所に常時勤務して実際の税理士業務等を行うことと説明しています。全社員が同じ事務所に毎日いる必要があるという意味ではありませんが、名義だけの加入を認める説明でもありません。弁護士を迎える場合も、登録、法人の許される業務範囲、担当業務、現実の執行体制を具体化します。

公認会計士については、税理士法3条3項の税法研修修了要件を確認します。平成26年法律第10号附則136条1項は、この改正を平成29年4月1日以後に公認会計士試験に合格した者に適用すると定めています。区切りは、公認会計士登録日ではなく試験合格日です。各人の研修修了と税理士登録の可否を確認します。

策③ 他の税理士法人と合併する

後任社員が見つからないなら、法人を法人のまま他の税理士法人に吸収してもらう選択肢があります。合併には総社員の同意が必要ですが(48条の19第1項)、社員が1人なら、その1人の同意で足ります。合併は存続法人の主たる事務所所在地での登記によって効力を生じ、消滅する法人の権利義務は存続法人に包括的に承継されます(同条2項・4項)。顧問契約を1件ずつ巻き直す必要がないのが、個人成りにはない利点です。

合併には税理士法48条の19の2の債権者保護手続があり、異議申述期間は1か月以上です。これは法定の最低期間であり、合併全体が1か月で終わる意味ではありません。相手の同意、官報掲載日、個別催告、異議への対応、合併登記の予定日を工程表にします。合併の効力は主たる事務所所在地の登記によって生じるため、社員加入と混同しません。

そして、現実の最大の壁は法的手続ではなく、受け皿になってくれる税理士法人を見つけ、条件(社員としての処遇、顧問先の扱い、のれんの評価)を詰めることです。時間との競争になる以上、社員が1人になる見込みが立った段階で、水面下の打診を始めておく必要があります。

策④ 時間を稼ぐ ― 脱退の効力発生日を動かす

4つめは、6か月の起算点そのものを遅らせる方法です。相手が任意退社を選ぶなら、その効力は6か月前の予告を経た事業年度の終了時に生じるのが原則です(会社法606条1項の準用)。予告から退社までの間、社員は2人のままですから、この期間を後任探しに充てられます。

合意脱退では、効力日を確定日とするほか、「後任Cの加入が有効となった日」とする条件付きの設計も考えられます。これは48条の17第3号の総社員の同意を具体化する設計です。対象者、加入要件、条件を満たしたことの確認方法に加え、「〇月〇日までに加入しなければ〇日に脱退する」等の最終期限と代替策を決めます。登記日だけを条件にせず、実体上の加入と登記・届出を分けます。条件不成就なら無期限に拘束するという設計は避け、606条3項のやむを得ない事由による退社など法定の出口を妨げないことも明記します。

もっとも、相手の死亡や登録抹消による法定脱退には、この策は効きません。予告なく社員が1人になる事態に備えるのは、平時の設計(3人以上の体制、承継計画)しかありません(第10講・第28講)。

5 一日でも過ぎたら戻れない ― 会社法642条の不準用

会社法642条は、解散した持分会社を社員の同意によって継続させる制度を定めています。定款で定めた存続期間の満了や総社員の同意によって解散した場合、清算が終わるまでの間なら、会社を元に戻せる。持分会社一般には、この「やり直し」の道があります。

税理士法48条の21、社労士法25条の25は、会社法642条を準用していません。解散後に社員を補充すれば、当然に法人が継続するという制度ではありません。

帰結は厳しいものです。6か月が経過して解散した税理士法人は、その後に社員を2人以上に戻しても、法人としては復活しません。残るのは清算の手続だけで、清算中の法人は税理士業務を行えません。顧問先との契約は、清算の過程で個人事務所に引き継ぐか、他の法人に譲るかしかなくなります。「期限を少し過ぎたが、すぐに社員を補充したから大丈夫だろう」という期待は、制度上成り立ちません。

だからこそ、この問題は「気づいたときに動く」ことがすべてです。社員が1人になった日を正確に把握し、6か月後の日付を確定し、そこから逆算して策①〜③のどれをいつまでに決めるかを決める。交渉の勝ち負けとは別に、この時計だけは止めなければなりません。

6 残る側の初動チェックリスト

社員が1人になる見込みが立った日に、残る側が確認しておくべき事項をまとめます。

確認事項 内容
起算日と期限の確定相手の脱退(または死亡・登録抹消)の効力発生日を特定し、6か月後の日付をカレンダーに固定する。合意脱退なら、効力発生日をまだ動かせないか検討する。
所属税理士の意向法人内に税理士登録をしている勤務税理士がいれば、社員昇格の可能性を打診する。法人の債務・保証・定款の払戻条項を開示して、本人が判断できる材料を渡す。
外部候補の洗い出し各人の資格・税理士登録・研修要件を確認し、必要な審査日程と補正期間を所属予定会に確認する。登録見込日と加入効力日を別に管理する。
合併の打診合併相手との協議、1か月以上の債権者異議期間、官報掲載・個別催告・登記を工程表にし、6か月の解散期限内に効力を生じさせられるか確認する。
最後の受け皿いずれも間に合わない場合に備え、計画的に解散して個人事務所へ移行する段取り(顧問契約の巻き直し、従業員の雇用、借入れの処理)を確認しておく(第25講)。
加入する社員への説明誰を迎えるにせよ、無限連帯責任・第二次納税義務・出資・脱退条件を書面で説明し、社員間契約を整えてから加入登記をする(第28講・補講②)。

残る側の視点で押さえておくこと

既登録者の加入、新規登録を経た加入、合併を、本人・相手方の合意と手続日程に即して比較します。合意で脱退日を動かす場合には、後任未確保時の最終期限も決めます。6か月の起算日は脱退の効力日であり、その登記日ではありません。

次回 第5講「社員でいる限り課される『足かせ』 ― 業務執行権・競業禁止・忠実義務・個人事務所の禁止」では、相手が社員である間に残る側が使える武器と、逆に相手も同じ権限を持っているという対称リスクを整理します。


【本講で引用した主な法令・資料】税理士法3条・18条・40条・48条の2・48条の4・48条の8・48条の12・48条の13・48条の17・48条の18・48条の19・48条の19の2・48条の21・51条/社会保険労務士法25条の14・25条の22・25条の23・25条の25/公認会計士法34条の7・34条の18/会社法606条・642条/国税徴収法33条/日本税理士会連合会「税理士法人の手引」第6版(令和5年5月)/国税庁「税理士制度Q&A」問7−1・7−8・7−9

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【追加の根拠】国税庁「税理士制度Q&A」問7−1・7−8・7−9/平成26年法律第10号附則136条1項。常駐と社員の義務は48条の11・48条の12、加入の設計は48条の13・48条の17と会社法606条の準用を区別して読む。加入に関する会社法604条は直接準用されていない。

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