ホーム ─ 連載コラム ─ 税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ─ 第25講

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第25講】

法人の終わらせ方・終わらされ方 ― 解散事由・清算手続・監督官庁の処分

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【第25講】

25第Ⅴ部 最終局面編第25講

法人の終わらせ方・終わらされ方
― 解散事由・清算手続・監督官庁の処分 ―

この連載は一貫して「法人を維持する側」の視点で書いてきました。しかし、実務ではもうひとつの結論があり得ます。お互いに消耗し尽くした末に、「もう二人とも法人を畳んで、それぞれ個人でやり直そう」という着地です。あるいは、望まないのに終わらされる場面もあります。相手の非違行為が監督官庁の処分に発展し、法人ごと解散を命じられるという最悪の筋書きです。

解散は、常に「負け」とは限りません。計画して畳む解散は、痛み分けの出口として十分に合理的です。しかし、段取りを誤った解散は、負け以上のものを失わせます。清算中の法人は本来業務ができず、顧問契約の承継先を決めないまま解散すれば、顧客は宙に浮きます。本講では、解散事由の全体像、清算手続の実際、計画的解散の段取り、そして監督官庁の処分という別ルートまでを、残る側の視点で整理します。

1 解散事由の全体像 ― 税理士法人と社労士法人の対比

税理士法人がどのような場合に解散するかは税理士法48条の18が、社労士法人については社労士法25条の22が定めています。並べると次のようになります。

表1 解散事由の対比

解散事由 税理士法人(税48条の18) 社労士法人(社25条の22)
定款に定める事由の発生 ○ ○
総社員の同意 ○ ○
合併(消滅法人となる場合) ○ ○
破産手続開始の決定 ○ ○
解散を命ずる裁判(833条2項の解散判決、824条の解散命令等) ○ ○
監督官庁の解散命令(本講第4節) ○(48条の20) ○(25条の24)
社員数に関する事由 社員が1人になり、6か月以内に2人以上にならなかった場合(第4講) 社員の欠亡(1人法人が認められるため、ゼロになったときだけ)

税理士法人が1名になった後の6か月の解散事由は、社労士法人にはありません。ただし、社労士法人にも裁判、処分、破産等による解散があり、解散が常に残る社員の自由な選択になるわけではありません。各事由と業務資格を確認してください。

もうひとつ、第4講で触れた点を繰り返します。持分会社には、解散後も社員の同意で会社を継続できる制度(会社法642条)がありますが、税理士法人・社労士法人にはこの規定が準用されていません。一度解散事由が生じて解散すると、後から「やっぱり続ける」に戻る道は用意されていない。解散は不可逆の一方通行だという前提で、以下を読んでください。

2 清算の実務 ― 清算目的の範囲と業務の引継ぎ

清算は裁判所の監督に属する

解散した法人は、清算の手続に入ります。税理士法人の解散・清算は裁判所の監督に属し(税48条の18の2)、社労士法人も同様です(社25条の22の3)。株式会社の通常清算が裁判所の関与なしに進むのと違い、士業法人の清算には裁判所が後見的に関与し、必要な検査もできる建て付けになっています。清算の具体的な手続は、会社法の清算持分会社の規定が準用されます(税48条の21第2項・社25条の25第2項)。清算人が就任し、現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の分配を進めていきます。

通常営業の継続と、現務の結了を分ける

清算法人は清算の目的の範囲で存続し、従来どおり新規受任して通常営業を続けることはできません。他方、会社法649条の現務の結了、債権回収、債務弁済等が清算人の職務です。日税連「税理士法人の手引」第6版28頁も、継続中の業務を完結させることを挙げています。個別の資格業務をどこまで終えられるかは、解散理由、資格者体制、処分の内容を確認し、顧客の期限を守れる受任者へ適法に引き継ぎます。解散と同時に全契約が当然に消えるという説明にはしません。

承継先は、社員だった者がそれぞれ開設する個人事務所か、新設する法人です。顧問契約は法人と顧客の契約ですから、自動的には移りません。顧客ごとに、どちらの事務所と新しく契約するかを選んでもらう手続が要ります。ここは第26講で扱う「分裂」の設計と重なるので、詳細はそちらに譲りますが、順序だけ言えば、承継の合意と顧客への案内を先に済ませ、解散の効力発生を後に置くのが原則です。逆にすると、業務ができない空白期間が生まれます。

残余財産の分配

債務の弁済と必要な留保をしたうえで残余財産を分配します(会社法664条・666条等)。通常は換価が必要ですが、すべての財産を必ず現金にしなければならないとは限りません。継続を前提とするのれんをそのまま清算価値とせず、事業・顧客関係の適法な有償承継で実現する対価があれば清算財産に反映します。債務を完済できないことが明らかになった場合は656条の破産申立義務も確認します。

3 計画的解散 ― 「二人とも個人に戻る」痛み分けの段取り

2名法人の紛争で、どちらも法人に固執しない場合、総社員の同意による解散は現実的な出口になります。どちらが法人を取るかで消耗するより、二人とも個人開業に戻り、顧客は顧客自身に選んでもらう。対等な痛み分けです。ただし、この道を選ぶなら、解散の合意と同時に、次の項目を一枚の合意書に落とし込んでおく必要があります。

顧客の割り振りと案内。担当を基準に承継先の第一候補を整理し、連名の案内文で顧客に通知して、顧客の選択で確定させます。一方が抜け駆けで案内を先行させれば、それだけで合意は壊れます。案内の文面・発送日・発送方法まで合意書に添付するのが安全です(第19講の共同通知と同じ発想です)。

従業員の転籍には本人の承諾等が必要です。解散だけで雇用契約が直ちに消滅するわけではありません。新しい雇用先・労働条件、合意退職、解雇を要する場合の労働契約法16条・労働基準法20条等を確認し、賃金・退職金・社会保険の手続を整えます。

借入・保証・賃貸借は、債権者や貸主と協議して弁済、解約、承継を処理します。法人内部の負担合意だけで債権者を拘束することはできません。債務を完済できないことが明らかな場合は、会社法656条の破産申立義務を確認し、任意の分配を先行させません(第3講)。

データと記録の帰属。顧客ごとの申告データ・労務データは承継先の事務所へ、法人自身の会計帳簿・清算関係書類は清算人の管理下へ。マイナンバーを含むデータの移転は、顧客企業の関与の下で行います(第23講)。

これだけの項目を、感情的に対立している二人が詰め切るのは、実際には簡単ではありません。だからこそ、計画的解散は「関係が壊れ切る前」にしか選べない出口です。交渉が既に泥沼なら、解散合意を目指すより、一方の脱退(合意脱退)に条件を付けて誘導する方が、まとまる可能性は高くなります。

4 監督官庁の処分 ― 戒告・業務停止・解散命令

解散にはもうひとつ、望まずに終わらされるルートがあります。監督官庁による処分です。

税理士法48条の20第1項は、税理士法人が税理士法又はこれに基づく命令に違反し、又は運営が著しく不当と認められる場合について、財務大臣による戒告、2年以内の業務の全部・一部の停止、解散命令を定めます。社労士法人については社労士法25条の24の要件と処分を確認します。個別の非違を、根拠条文の要件に対応させて判断します。

内部紛争との関係で見逃せないのは、「運営が著しく不当」という要件です。脱税指南のような分かりやすい非違だけでなく、法人としての運営の乱れそのものが処分事由になり得る書き方になっています。社員同士の紛争で業務管理が崩壊し、無資格者への丸投げや名義貸しまがいの状態が生じれば、紛争それ自体が処分リスクに転化します。

さらに、税理士法には次の二つの仕組みがあります。第一に、法人への処分と社員個人への懲戒は別立てで、法人を処分する場合に、社員である税理士に懲戒事由があれば、その税理士への懲戒処分を併せて行うことは妨げられません(同条4項)。第二に、法人が解散または業務停止を命じられた場合、処分の日以前30日内に社員だった税理士は、処分の日から3年間(業務停止の場合はその停止期間)、他の税理士法人の社員になれません(税48条の4第2項)。いわば連座の構造です。処分を受けたのは法人でも、その足かせは社員全員の再出発に及びます。処分が出そうだと察知して直前に脱退しても、「30日内に社員だった者」に含まれれば逃げ切れません。

5 相手の非違を監督官庁に持ち込むか ― 効用と副作用

預り金の流用、名義貸し等を把握した場合は、事実確認、顧客保護、必要な監督機関への報告・相談を進めます。個人への処分による脱退(第6講)と、社員の除名訴訟(第8講)、法人への処分は別の制度です。懲戒の可能性を交渉上の威嚇としてだけ扱わないでください。

しかし、この手には副作用が三つあります。第一に、矛先は法人にも向き得るということ。相手の非違が法人の業務として行われていれば、処分の対象は相手個人だけでなく法人にもなり得ます。法人が業務停止や解散命令を受ければ、前節の連座構造により、残る側自身の再出発にも足かせが掛かります。相手を撃つつもりの弾が、自分の守っている法人に当たるのです。第二に、手続は自分ではコントロールできません。いったん通知すれば、調査の範囲も処分の時期も官庁側が決めます。交渉の駆け引きとして「通知するぞ」と言うことと、実際に通知することの間には、取り返しのつかなさに大きな差があります。第三に、調査が入れば顧客に伝わります。「あの事務所は当局の調査を受けているらしい」という評判は、紛争そのものより速く顧客を減らします。

監督機関への通知・相談は、個人的非違に限らず、法人の適正運営、顧客保護、法令上の義務を踏まえて判断します。事実を確認し、必要な資料を提供することと、相手の譲歩を得るためだけに処分の可能性を持ち出すことを区別します。自法人への影響があるから必要な報告を控えるという判断にもなりません。

6 守る第4講と、畳む本講 ― 主導権は準備した側にある

第4講では、税理士法人の残る側が「社員1人・6か月」の時計と戦いながら法人を守る方法を扱いました。本講では、その反対側――法人を計画的に畳む方法と、望まずに終わらされるリスク――を見てきました。両者は正反対の結論に見えて、共通点があります。どちらのシナリオでも、先に段取りを描いた側が主導権を握るということです。

法人を守るなら、後任社員の確保・顧客への説明・払戻資金の手当てを、相手の脱退予告より先に準備しておく。畳むなら、顧客の割り振り・従業員の転籍・借入の処理を、解散合意の交渉が始まる前に描いておく。準備のない側は、相手の提示した図面の上で交渉させられます。解散という言葉に動転して「畳むくらいなら全部呑む」となるのも、意地だけで「絶対に解散しない」と言い続けて消耗するのも、図面を持たない側の負け方です。

残る側にとっての実務的な結論はひとつです。法人を守るプランと畳むプランの両方を、数字(払戻額・清算配当の概算)付きで手元に置いた上で交渉に臨むこと。二つのプランを比べられる者だけが、「守る方が得だから守る」という冷静な判断と、「これ以上は畳んだ方がまし」という撤退ラインを持てます。

残る側の視点で押さえておくこと

解散後の通常営業、清算としての現務の結了、顧客業務の承継を区別します。社員数不足、社員の解散請求、裁判所の解散命令、監督官庁の処分は別の制度です。税理士法48条の4第2項2号の処分前30日内の社員に対する制限も、「税理士資格そのものが一律に3年間失われる」ことではなく、税理士法人の社員資格に関する規律として確認してください。

次回 第26講「法人は『分割』できない ― 分裂の法技術」では、「法人を半分に割ってそれぞれでやろう」という一見公平な提案が法的には実行できないことを出発点に、脱退と顧問先移管を組み合わせた「分裂」の設計図を、社員3名・2事務所の設例とともに描きます。


【本講で引用した主な法令】税理士法48条の18・48条の18の2・48条の20・48条の4第2項・48条の21/社会保険労務士法25条の22・25条の22の3・25条の24・25条の25/会社法642条・666条ほか清算持分会社に関する規定(税理士法48条の21第2項・社会保険労務士法25条の25第2項による準用)

↑ この講の目次へ戻る

【清算業務の範囲】日税連「税理士法人の手引」第6版27〜30頁/会社法645条・649条・656条・664条・666条・668条等の準用。

税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 目次へ戻る