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『病院・クリニック経営150講 ― ステージ別・頻出過去問集 ―』【第7講】

友人医師との共同開業 ― 仲が良いほど先に決めるべきこと

病院・クリニック経営150講 ― 院長が困る日の教科書 ―

第7講 友人医師との共同開業― 仲が良いほど先に決めるべきこと

第Ⅰ部 開業前・開業設計

共同開業では、信頼関係があるうちに「決め方」と「別れ方」を話し合ってください。仲の良さだけでは、勤務量や報酬、長期療養、死亡、退出をめぐる認識の違いは埋まりません。関係が悪化してからでも合意はできますが、準備段階の方が落ち着いて条件を比較できます。本講では、先に話しておきたい9項目を整理します。契約書は、互いの期待と責任を確かめるための道具です。

「なあ、一緒にやらないか。俺が内科で、お前が整形なら、患者層もかぶらないし」――。
医局の同期、学会で再会した同門の先輩後輩。共同開業の話は、たいてい信頼関係の一番良いところから始まります。だからこそ、報酬の分け方も、片方が病気になったときのことも、別れるときのことも、「まあ、そのへんは追々」になる。そして「追々」は、開業後の忙しさの中で、一度も来ません。

1 なぜ医師の共同開業は揉めやすいのか

共同経営一般の難しさに加えて、医師の共同開業には固有の揉めやすさが三つあります。

第一に、「対等」の意味がそろっていないことです。出した資金、勤務量、診療収入、経営事務の負担は、それぞれ別のものです。すべてを半分にするのか、項目ごとに分けるのかを決めずに始めると、取り分への不満が生じることがあります(第8講)。

第二に、対立しても患者への対応が続くことです。診療の継続が難しい場合でも、代診、転医支援、休止等の手続を含めた対応が必要です。経営上の争いが医療安全や職員への指示に影響しないよう、平時から役割と連絡経路を決めておきます。

第三に、家族が後から入ってくること。開業時は医師二人の関係でも、数年経てば互いの配偶者が経理や受付に入り、承継期には子どもが登場します。二人の間では言わなくても分かったことが、家族を含めた四人・六人の間では分からなくなる。当事者が増える前の、二人だけの時期に書面を作っておくことが重要です(第Ⅻ部)。

2 器の選択 ― 「別れ方」から逆算する

主な選択肢は、①各自が別の診療所を開設して連携する形、②一方が個人開設者となり、他方が勤務医等として参加する形、③医療法人で社員・役員・勤務医として関わる形です。①では施設・人員・会計・患者情報等の区分が必要になり、同じ建物なら自由に一体運営できるわけではありません。②では、利益や役割の分担を決めても、勤務医が当然に共同の開設者になるわけではありません。

社団医療法人の社員には、出資額にかかわらず各1個の議決権があります。ただし、「社員2人だから、すべて1対1で何も決まらない」とは限りません。法律と定款に定める議長の扱い、定足数、決議要件、理事会の権限を確認する必要があります(第8講)。新設の社団医療法人は持分なし型なので、社員の地位を株式会社の株式のように換金する出口もありません。貸付金・基金・退職金等の取扱いを別に整理します。

3 決めるべき9項目 ― 言い出しにくい順に

共同開業契約や社員間協定を検討する際は、次の9項目を順に話し合ってください。雇用関係、役員としての委任関係、社員としての関係では適用されるルールが異なります。表は交渉の出発点であり、どの条項もそのまま有効になるという意味ではありません。

項目決めておくべき中身
①退出のルール退出の手続と予告期間、貸付金・基金・報酬等の精算、患者への案内、近隣での再開業の扱いを整理する。雇用・役員・社員の各地位を区別し、患者の選択と競業制限の合理性にも配慮する。
②死亡・長期離脱一方が亡くなった・倒れたときの診療体制、遺族への精算、生命保険の活用(保険金を精算原資にする設計)。管理者が欠ける場合の後任も(第6講の管理者要件・第37講)。
③報酬の決め方均等、売上連動、基本額と加算などを比較し、金額・算定方法・見直し手続を決める。法人の役員報酬は必要な決議と税務上の損金算入条件も確認する。
④勤務量・休暇外来コマ数、当直、学会、休暇、療養中の代診・報酬を決める。雇用される医師には、労働法上の休業・休暇や不利益取扱いの禁止等があるため、自由な減額合意で処理しない。
⑤追加資金赤字補填や設備更新の負担を決め、貸付・基金・寄附等の法的性質を分ける。持分なし法人に追加拠出しても持分は生じず、出資額に比例して社員の議決権が増えるわけではない。
⑥意思決定日常業務の担当と、社員総会・理事会等の決議を要する事項を分ける。多額の借入など、法律上理事に決定を委任できない重要事項もある。二人の合意だけで法定の機関権限を置き換えない。
⑦連帯保証・担保融資・賃貸借の保証や担保を誰が負担するか、退出時に解除をどう交渉するかを決める。当事者間で「保証を外す」と合意しても債権者を拘束しない。解除できない場合の内部負担も整理する。
⑧家族の関与互いの配偶者・親族を職員・役員に入れるか、入れるなら処遇の決め方。「相手の家族への不満」は本人への不満より言い出しにくく、こじれやすい。
⑨もめたときの手続協議が整わないときに、第三者(顧問税理士・弁護士・調停)を入れる手順。連絡を絶つ・患者やスタッフを巻き込む前の「決められた逃げ道」を作っておく。

4 書面化の作法 ― 「全部は決められない」を前提に

すべての将来を予測することはできませんが、開業時に必要な条件は合意して書面に残します。未決事項には、判断する人、期限、協議の手順、第三者を交える条件を定めます。年1回や勤務体制が変わったときに内容を見直すと、契約と実態のずれを把握しやすくなります。ただし、見直すという約束だけで、従来の報酬や権利を一方的に変更できるわけではありません。

医療法人では、社員間の協定があっても、必要な社員総会・理事会の決議や定款変更の認可等を省略できません。誰が契約当事者か、法人自身が義務を負う内容かも区別します。契約、定款、規程、適法な決議をそろえ、その結果を議事録に残してください。議事録を書くだけで、欠けている決議が補われるわけではありません。

5 今日やること・やってはいけないこと

今日やること

  • 9項目の表を相手と共有し、「どれから話すか」を二人で決める(①退出から話せたら上出来です)
  • 器の候補(別々の診療所で連携/一方が開設して他方が勤務/医療法人)ごとに、退出時の権利と負担を書き比べる
  • 互いの保証・借入・家族の関与予定を開示し合う

やってはいけないこと

  • 「対等でいこう」を、報酬・出資・議決の全部に無検討で適用する(第8講)
  • 退出・死亡の話を「縁起が悪い」と先送りする
  • 契約書を作ったことに安心して、実態とずれたまま放置する
  • 相手の家族への不満を、本人に言わずスタッフに漏らす(院内政治の始まりです・第60講)

6 よくある質問

親友です。契約書を持ち出したら関係が壊れませんか。
切り出し方への配慮は必要です。「病気になったときにも、お互いと家族が困らないように決めたい」と目的を共有し、この講の9項目を使って話してみてください。契約の話をためらうことだけで、相手の誠意や友情の強さを判断する必要はありません。
兄弟・親子での共同開業にも、この講は当てはまりますか。
当てはまります。しかも家族の場合、退出・死亡の取り決めが相続とも連動するため、書面化の必要性はむしろ高くなります。親子の場合は承継の時間軸(第127講)、兄弟の場合は相続の公平(第125講)と併せてお読みください。
すでに共同開業して数年経ちますが、契約書はありません。今から作れますか。
今からでも作れます。まず現在の勤務、報酬、借入、保証と、過去の合意を整理し、双方で確認します。既存の権利や債務を一方的に書き換えることはできないので、合意できる点から文書化し、法人の決議等が必要な変更はその手続も行ってください。

作成日:2026年7月1日
改訂日:2026年9月17日

主な法令・公的資料

  1. 医療法

    社員総会、役員、管理者、医療事故調査、開設・承継に関する規定。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205

  2. 医療法施行規則

    管理者変更等の届出、面接指導実施医師(65条)、記録・安全管理。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100050

  3. 民法

    契約、委任、責任、相続・財産分与。768条の改正を含む。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

  4. 労働基準法

    法定労働時間、36協定、割増賃金、宿日直、有期契約に関する137条の例外。

    https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

  5. 国税庁:役員に対する給与

    定期同額給与等と役員給与の損金算入。

    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm

  6. 厚生労働省:社団医療法人定款例

    社員の入退社、社員総会の議長・決議、役員等に関する定款例。

    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205243.pdf

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