第5講不動産オーナーの相続24講
不動産オーナーの公正証書遺言 ― 「誰に残すか」の先まで設計する
地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所
掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日
「長男にアパートを残す、と書けば十分でしょうか」。承継先を指定することは大切ですが、その一文だけで、借入や家族間の精算まで完了するわけではありません。
この講の要点実行できる遺言には、財産の特定、承継先、支払資金、代わりの承継先、実行する人の五つが必要です。 公正証書は、本人の意思を適切な方式で残す有力な方法ですが、内容の設計を省略できる制度ではありません。
公正証書遺言の強みと、保証されないこと
公正証書遺言は、公証人が関与し、原則として証人二人の立会いのもとで作成します。家庭裁判所の検認が不要で、公証制度による原本の保管も行われるため、自宅保管の自筆証書遺言に比べて紛失や改変に備えやすい方式です。日本公証人連合会「遺言」
ただし、公正証書であっても、遺言能力、本人の真意、遺言内容の解釈などが争われる余地はあります。遺留分侵害額の支払原資も、自動的に用意されません。「争えない遺言」ではなく、本人の希望を確認し、争点を減らし、手続を進めやすくする遺言を目指します。
条項を作る前に確認すること
| 検討事項 | 不動産オーナーが確認すべき内容 |
|---|---|
| 物件の特定 | 土地・建物・私道持分・付属建物の漏れ、未登記部分 |
| 承継先 | 経営意思、居住継続、他の家族との調整 |
| お金の負担 | 借入、敷金、納税、遺留分、必要な修繕資金 |
| 予備の指定 | 取得予定者が先に死亡した場合の承継先 |
| 実行方法 | 遺言執行者、必要な権限、資料の保管と引継ぎ |
「大阪のマンション」といった呼び名だけに頼らず、登記事項と現地・管理資料を照合します。駐車場や私道持分だけが漏れていると、建物の利用や売却の場面で追加の協議が必要になることがあります。後から取得した財産などの帰属も検討します。
借入と敷金は、物件の名義だけでは整理できない
アパートを子一人に相続させる遺言があっても、他の相続人の銀行に対する責任が当然に消えるとは限りません。借入契約、担保、保証、団体信用生命保険の内容を確かめ、債務の引受けや借換えについて銀行との調整が必要かを検討します。
敷金も、単なる余剰預金として配ってよいとは限りません。返還義務と対応する資金を確認し、滞納家賃や未払管理費も一覧にします。遺言の条項と、賃貸経営を引き継ぐための管理資料は、対になるものです。
遺言執行者を置く場合、その役割は遺言を実現することです。指定しただけで銀行の同意を不要にしたり、すべての財産を無制限に処分したりできるわけではありません。権限は法律と遺言内容に照らして確認します。民法1006条・1012条・1014条
架空の設例:アパートを残した結果、承継する子が現金不足に
父は、長男にアパート、長女に預金を残す予定です。長男には賃貸経営を続ける意思がありますが、自己資金は多くありません。遺留分や税金に加え、翌年には大きな修繕も予定されています。
この場合、長男が取得する物件の価格だけでなく、相続後一年程度の支払予定を確認します。配分する預金の変更、一部物件の売却、生前の資産整理などを比較し、必要なら税理士による試算も行います。「不動産を残す」という希望をかなえるには、持ち続けられる資金計画まで必要です。
本人の意思を残し、見直す仕組みを作る
判断能力に懸念がある場合は、本人が何を理解し、なぜその配分を望むのかを丁寧に確認します。診療情報や面談記録が意味を持つこともありますが、記録さえあれば有効性が保証されるわけではありません。家族の希望を、そのまま本人の希望として扱わないことが重要です。
付言事項には、配分の理由や家族への思いを記載できます。ただし、法的な権利を消す効果を期待するものではありません。また、物件の売却・買増し、家族の死亡・離婚、借入の変更があったら、遺言を見直します。
今日確認したいこと
- 登記と現況を照合し、関連する土地や持分まで特定したか。
- 取得予定者が先に亡くなった場合も検討したか。
- 借入・敷金・納税・遺留分を含む支払資金を見積もったか。
- 遺言執行者の役割と、家族・管理会社への連絡方法を決めたか。
よくあるご質問
Q. 公正証書遺言なら、遺留分の請求を防げますか。
A. 方式が公正証書であることを理由に、遺留分がなくなることはありません。配分と支払原資の検討が必要です。
Q. 必ず公正証書でなければいけませんか。
A. 自筆証書遺言などの方式もあります。財産や家族関係が複雑な場合は、作成時の確認と保管・実行のしやすさを含めて方式を選びます。
明徳法律事務所への相談で整理できること
「誰に何を残したいか」という希望から出発し、その遺言で登記・経営・支払いまで進められるかを点検します。すでに作成済みの場合も、遺言書と現在の財産一覧を照合すると、漏れや環境の変化を確認できます。