第7講役員・機関・意思決定
その取締役は、法律上まだ「取締役」なのか
選任・任期・辞任・解任・権利義務役員
この講の結論
取締役の地位は、株主総会の有効な選任決議と本人の就任承諾によって生じます。登記は公示のための手続であって、登記があるから取締役になるわけでも、登記がないから取締役でないわけでもありません。地位の終わり方も一つではなく、任期満了、辞任、解任のそれぞれで要件と効果が異なります。しかも、任期満了や辞任によって退任した後でも、法律や定款で定めた員数を欠く場合には、後任が就任するまで権利義務が残ります。内紛では「誰が今、取締役なのか」がそもそも争われますから、この講の区別を最初に押さえておく必要があります。
選任・承諾・登記を分ける
取締役、会計参与、監査役は株主総会の決議によって選任します(会社法329条1項)。選任の決議は普通決議ですが、定足数を定款で引き下げても議決権の3分の1未満にはできません(341条)。会社と役員の関係には委任に関する規定が適用されますから(330条)、選任決議だけでは足りず、本人が就任を承諾してはじめて委任契約が成立し、取締役の地位が生じます。選任決議の議事録、就任承諾書、任期、登記を、一続きの資料として確かめてください。
登記は、会社が第三者に対して役員の地位を主張するための公示の手続であって、実体のない選任を有効にする力はありません。株主総会が開かれていないのに選任の登記だけがされている場合、その人は取締役ではありません。反対に、適法に選任され就任を承諾した人は、登記が未了でも取締役です。登記事項証明書は出発点として重要ですが、それだけで地位が確定するわけではありません。
本人が知らないうちに取締役として登記されていた、という相談は珍しくありません。この場合、まず選任決議と就任承諾があったのかを確かめ、それがなければ取締役ではないという結論になります。ただし、後述するとおり、実体のない登記であっても、本人がその登記に承諾を与えていた場合には、第三者との関係で責任を負うことがあります。「取締役ではない」という結論と、「取締役として責任を負わない」という結論は、別に検討しなければなりません。
登記と実体がずれたときの責任
会社法は、故意または過失によって事実と異なる登記をした者は、その事項が事実と異なることを善意の第三者に対抗できないと定めています(908条2項)。この規定の名宛人は登記をした会社ですが、最高裁は、取締役に就任していないのに登記されることを承諾した者についても、不実の登記の出現に加功した者として、この規定(当時の商法14条、現行の会社法908条2項)を類推適用し、故意または過失がある限り、登記が事実と異なることを善意の第三者に主張できないとしています(最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁)。選任の実体がないのに名前を貸しただけの者(いわゆる登記簿上の取締役)が、会社の債権者から取締役としての責任を問われる根拠の一つです。
辞任した後に登記が残っている場合も同じ問題が生じます。最高裁は、辞任した取締役は、辞任の登記がされていなくても、退任後になお積極的に取締役として対外的または内部的な行為をあえてしたなどの事情がない限り、第三者に対する責任を負わないのが原則であるとしつつ、登記の申請権者である会社に対して辞任の登記を申請しないことを明示的に承諾していたなどの特段の事情がある場合には、908条2項の類推適用によって、辞任したことを善意の第三者に対抗できないとしています(最判昭和62年4月16日判時1248号127頁)。辞任したのであれば、辞任の登記を速やかに求め、会社が応じなければその経過を記録しておくことが、自分の身を守ることにつながります。役員の変更登記は変更から2週間以内にしなければならず(915条1項)、怠れば過料の対象になります(976条1号)。
任期を正しく計算する
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までです(332条1項)。就任日から2年でも、登記日から2年でもありません。3月決算の会社で2025年6月の定時総会で選任された取締役の任期は、2027年3月期に関する定時総会(2027年6月頃)の終結時までであり、その総会が開かれないまま定款で定めた開催時期を過ぎれば、その時点で任期は満了しますが、員数を欠くことになる場合には後述の権利義務が残ります。非公開会社(監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除きます)では、定款で、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時総会の終結時まで伸長できます(同条2項)。監査等委員会設置会社の監査等委員でない取締役と指名委員会等設置会社の取締役は1年(同条3項・6項)、監査役は4年(336条1項)で、それぞれ別の規律です。
定款の変更、補欠や増員で選任された役員の任期に関する定款の定め、過去の改選の履歴を確かめます。補欠の役員をあらかじめ選任しておくこともでき(329条3項)、その選任決議は、定款に別段の定めがなければ、決議後最初の定時株主総会の開始時まで効力を持ちます(会社法施行規則96条3項)。また、監査等委員会や指名委員会等を置く定款変更、それらを廃止する定款変更、非公開会社(監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除きます)が発行する全部の株式についての譲渡制限の定めを廃止する定款変更をしたときは、取締役の任期はその時点で満了します(332条7項)。
長期の任期は改選の手間を省く一方で、任期の途中で解任した場合に賠償の対象となる期間が長くなります。10年の任期の2年目に正当な理由なく解任すれば、残り8年分の報酬が損害の算定の出発点になりかねません。反対に、任期を短縮する定款変更によって現任の取締役の任期を終わらせることもできますが、これを解任の代わりに使えば、損害賠償の問題が生じ得ます。任期短縮の定款変更後に再任されなかった取締役について、339条2項を類推適用し、正当な理由がない限り会社が損害賠償責任を負うとした裁判例があります(東京地判平成27年6月29日判時2274号113頁。賠償の対象は退任日の翌日から2年分に限られました)。
辞任は意思表示の内容と到達を確認する
委任は各当事者がいつでも解除できますから(民法651条1項)、取締役はいつでも辞任できます。辞任は会社に対する一方的な意思表示であり、会社に到達した時に効力が生じます(民法97条1項)。辞任届の様式が整っているかより、辞任する意思が本当にあったか、どの役職を対象としているか、いつ会社に到達したか、条件や日付が付いているかを確かめることが先です。取締役の辞任と代表取締役の辞任は別のもので、代表取締役だけを辞任して取締役にとどまることもあれば、取締役を辞任することで当然に代表取締役の地位も失うこともあります。
内紛では、本人が作成していない辞任届が登記に使われた、白紙に押印した書類が辞任届に転用された、従業員としての退職の話合いが役員の辞任と混同された、といった事態が争点になります。辞任届の原本、送付や送信の履歴、作成の経緯、前後のやり取りを保存し、登記の記載だけで結論を出さないことです。辞任届に本人の印章による押印があれば、その文書は真正に成立したものと推定されますから(民事訴訟法228条4項)、押印の経緯を争う側が事情を立証する必要が生じます(第4講)。
解任と損害賠償
役員は株主総会の決議によっていつでも解任できます(339条1項)。通常の取締役の解任は普通決議ですが、定足数を3分の1未満にできない特則があり(341条)、監査役や累積投票で選任された取締役、監査等委員である取締役の解任は特別決議によります(309条2項7号)。解任決議が可決されれば、正当な理由の有無にかかわらず解任は有効です。
ただし、解任について正当な理由がない場合、解任された役員は会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求できます(339条2項)。解任の有効性と、会社が賠償義務を負うかどうかは別の問題です。正当な理由が認められた例として、持病の悪化により療養に専念するため代表取締役の地位を退いていた取締役を、新しい経営陣が経営陣の一新を図るために取締役から解任した事案で、最高裁は正当な理由がないとはいえないと判断しています(最判昭和57年1月21日判時1037号129頁)。他方、経営方針の対立や、多数派と折り合わないというだけでは、正当な理由は認められにくいのが実務の傾向です。
損害の範囲については、解任されなければ残りの任期の間と任期満了時に得られたはずの利益と解した裁判例があります(大阪高判昭和56年1月30日判時1013号121頁)。残りの任期の報酬額が算定の中心になりますが、残りの年数に月額報酬を機械的に掛けた額が必ず全額認められるわけではなく、報酬の根拠となる決議、任期、損害の内容、解任との因果関係を具体的に主張立証することになります。前述のとおり、任期を長く設定している会社ほど、解任の代償は大きくなります。
権利義務役員として残る場合
役員が欠けた場合、または法律や定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了または辞任によって退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を持ちます(346条1項)。会社の機関が空白になることを防ぐための規定です。後任がいないすべての場合に適用されるわけではなく、退任しても法定または定款の員数を満たしていれば、権利義務は残りません。また、条文は任期満了と辞任による退任を対象としており、解任によって退任した役員には及びません。解任された役員が「後任がいないから自分はまだ取締役だ」と主張することはできないということです。
代表取締役についても同じ仕組みがあり、代表取締役が欠けた場合や定款で定めた員数が欠けた場合には、任期満了または辞任で退任した代表取締役が、後任が就任するまで権利義務を持ちます(351条1項)。権利義務役員は名義だけの存在ではなく、取締役としての職務と責任が続きます。辞任したつもりで会社の業務を放置すれば、任務懈怠の責任を問われ得ます。退任後の競業を考えている場合も、まず自分の地位が本当に終わっているのかを確かめてください。
裁判所が選ぶ一時役員
役員が欠けた場合や員数が欠けた場合に、必要があると認めるときは、裁判所は利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任できます(346条2項)。代表取締役についても一時代表取締役の制度があります(351条2項)。これは、自派の人数を増やすための制度ではなく、欠員と選任の必要性を裁判所に示して、中立的な者に暫定的な職務を担わせる制度です。実務では弁護士が選任されることが多く、報酬は裁判所が定めることができます(346条3項、351条3項)。
権利義務役員に不正の行為があった場合、株主はその役員を解任の訴え(854条)によって排除できるかという問題があります。最高裁は、854条の「役員」に権利義務役員は含まれず、同条を適用または類推適用して権利義務役員の解任を請求することは許されないと判断しました(最判平成20年2月26日民集62巻2号638頁)。その理由として、権利義務役員に不正の行為があり新たな役員を選任できない場合は、一時役員の選任の必要があると認められる場合に当たり、株主は裁判所に一時役員の選任を申し立てることができ、一時役員が選任されれば権利義務役員の地位は失われる、という道筋が示されています。もっとも、この判決は違法行為の差止め(360条)や損害賠償の請求まで排除する趣旨ではありませんし、職務執行停止・職務代行者選任の仮処分(民事保全法23条2項)とも別の制度です。権利義務役員が問題を起こしている場合には、一時役員の選任申立てと、これらの手段を組み合わせて検討します(第26講)。
地位の一覧表
表は横にスクロールできます。
| 確認事項 | 根拠となる資料 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 選任・就任 | 株主総会議事録、就任承諾書 | 決議そのものの効力、本人の承諾の有無、登記との食い違い |
| 任期 | 定款、選任の日、事業年度 | 定時総会の終結時が基準。定款変更による伸長・短縮、補欠・増員の特則、332条7項による満了 |
| 退任 | 辞任届、解任決議、任期満了 | 取締役と代表取締役の役職ごとの終了時点、辞任の到達日 |
| 欠員 | 法定の員数、定款の員数 | 権利義務の残存(解任には及ばない)、一時役員の選任 |
| 登記・対外関係 | 登記事項証明書、金融機関への届出 | 実体と外観のずれ、908条2項の類推適用による責任 |
PRACTICE NOTE
取締役二人の会社で一人が辞任したら
【設例】取締役会を置かない非公開会社で、定款は「取締役は1名以上」と定め、実際の取締役はAとBの2人とします。Aが有効に辞任してBが残る場合、定款の員数を欠きませんから、後任が選任されていないというだけの理由でAを権利義務取締役として扱うことはできません。Aは辞任の到達によって取締役でなくなり、会社はBだけで運営されます。
定款が「取締役は2名以上」と定めている会社であれば、同じ辞任でも346条1項の検討が必要になります。Aは後任が就任するまで権利義務取締役として残り、辞任したつもりでも取締役としての職務と責任が続きます。取締役会設置会社には取締役3人以上という法定の員数があり(331条5項)、3人のうち1人が辞任すれば、定款の定めにかかわらず権利義務が残ります。
もう一つ注意が必要なのは、Aが代表取締役でもあった場合です。取締役を辞任すれば代表取締役の地位も失います。351条1項による代表取締役の権利義務は、その人が取締役(権利義務取締役を含みます)であることが前提ですから、この設例のようにAが取締役としての権利義務すら持たない場合には、代表取締役としての権利義務も残りません。代表取締役の権利義務が残るのは、定款が「取締役は2名以上」と定める場合のように、Aが346条1項によって取締役としての権利義務を持ち続ける場合です。Aが代表者でなくなった後、取締役会を置かない会社で代表取締役を定めていなければ各取締役が会社を代表しますから(349条1項・2項)、Bが会社を代表しますが、定款で代表取締役を定める方式にしている会社では、新しい代表取締役の選定手続が必要です。現在の人数だけでなく、法定・定款の最低員数、退任の原因、代表取締役の選定方法を組み合わせて判断します。
実務チェック
- 関係者ごとに、取締役としての地位と代表取締役としての地位を別の欄で整理する。
- 任期は、就任日ではなく、定款と選任決議の履歴、事業年度から再計算する。
- 辞任については、意思表示の内容、対象となる役職、会社への到達日を確かめる。
- 退任後の員数が法定・定款の員数を満たしているか、後任が就任しているかを確かめる。
- 登記と実体のずれがあれば、変更登記を求め、応じない場合の経過を記録する。
- 役員の地位とは別に、雇用関係、個人保証、未払報酬を整理する。
よくある質問
辞任届を出したので、翌日から責任はありませんか。
そうとは限りません。辞任によって法定または定款の員数を欠くことになれば、後任が就任するまで権利義務取締役として職務と責任が続きます(346条1項)。員数を欠かない場合でも、在任中の行為についての責任は辞任によって消えません。また、辞任の登記がされないまま放置され、それを承諾していたと評価されると、第三者との関係で責任を問われることがあります。辞任した後は、辞任の登記を会社に求め、応じなければその経過を残しておいてください。
任期が切れた役員は、解任の訴えで外せますか。
外せません。最高裁は、権利義務役員について854条の解任の訴えを認めていません(最判平成20年2月26日)。取るべき道は、株主総会で後任を選任すること、それができない場合に裁判所へ一時役員の選任を申し立てること、個別の違法行為については差止めや仮処分を使うことです。後任の選任は普通決議ですから、総会の招集ができるかどうかが実際の分かれ目になります(第2講)。
名前だけ貸して取締役になっていましたが、会社の債権者から責任を問われますか。
問われることがあります。適法に選任され就任を承諾しているなら、実際に経営に関与していなくても取締役であり、他の取締役の職務執行を監視する義務を怠ったとして責任を問われ得ます。選任の実体がなく登記だけがある場合でも、登記されることを承諾していれば、登記が事実と異なることを善意の第三者に主張できません(最判昭和47年6月15日)。責任が実際に認められるかは、重大な過失の有無や、監視していれば損害を防げたかといった個別の事情によりますが、「名前だけ」であること自体は、責任を免れる理由にはなりません。
この講の主な根拠条文・裁判例
- 会社法〔e-Gov法令検索〕309条2項7号、329条、330条、331条5項、332条、336条、339条、341条、346条、349条、351条、360条、854条、908条、915条、976条
- 会社法施行規則〔e-Gov法令検索〕96条
- 民法〔e-Gov法令検索〕97条、651条
- 民事訴訟法〔e-Gov法令検索〕228条
- 民事保全法〔e-Gov法令検索〕23条
- 最判昭和47年6月15日民集26巻5号984頁取締役への就任登記を承諾した者は不実登記の出現に加功した者として、故意または過失がある限り、登記が事実と異なることを善意の第三者に対抗できないとした判例(旧商法14条の類推適用。現行法では会社法908条2項)
- 最判昭和57年1月21日判時1037号129頁持病の悪化により療養に専念するため代表取締役を退いていた取締役を、新経営陣が経営陣の一新のために取締役から解任した事案で、正当な理由がないとはいえないとした判例
- 東京地判平成27年6月29日判時2274号113頁任期短縮の定款変更後に再任されなかった取締役について、339条2項を類推適用し、正当な理由がない限り会社が損害賠償責任を負うとした裁判例(賠償は退任日の翌日から2年分に限定)
- 大阪高判昭和56年1月30日判時1013号121頁正当な理由のない解任による損害を、解任されなければ残りの任期中と任期満了時に得られたはずの利益と解した裁判例
- 最判昭和62年4月16日判時1248号127頁辞任した取締役は、辞任の登記が未了でも原則として第三者に責任を負わないが、辞任登記を申請しないことを明示的に承諾していたなどの特段の事情があれば、不実登記の規定の類推適用により辞任を善意の第三者に対抗できないとした判例
- 最判平成20年2月26日民集62巻2号638頁〔裁判所ウェブサイト〕会社法854条を適用または類推適用して株主が権利義務役員の解任を請求することは許されないとし、一時役員の選任申立てによる対応を示した判例
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日