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『不動産オーナーの相続24講 ― 地主と大家の教科書 ―』【第13講】

アパートを継がないのに、借金だけ残る? ― 物件・ローン・家賃を一緒に整理する

第13講不動産オーナーの相続24講

アパートを継がないのに、借金だけ残る? ― 物件・ローン・家賃を一緒に整理する

地主と大家の教科書 | 明徳法律事務所

掲載ページ | 改訂日:2026年9月18日

「兄がアパートを相続するのだから、銀行への返済も兄の問題でしょう」。その理解で遺産分割協議書に署名すると、物件を取得しなかった人に、銀行から請求が来ることがあります。

この講の要点不動産の取得者を決めることと、銀行に対する債務者を一本化することは、別の手続です。 賃貸物件の相続は、所有権だけでなく、借入金・担保・保証・敷金・分割までの家賃を一体で整理して、初めて実行可能な形になります。

「長男が返す」と書いても、銀行との関係は終わらない

通常の金銭債務などの可分債務は、原則として相続分に応じて承継されます。遺言による相続分指定がある場合も、債権者は原則として法定相続分に応じて権利を行使できます。相続人の内部負担と、債権者から請求される範囲を分けて考える必要があります。

協議書の「借入金は長男が全額負担する」という条項だけでは、銀行は拘束されません。他の相続人を債務から外すには、銀行との免責的債務引受や借換えなどを具体化します。銀行が求める収支資料、担保、保証条件も含めて、協議の成立前から確認します。民法472条・899条・902条の2

抵当権も、遺産分割をしただけでは消えません。「土地は妹、建物と借入金は兄」という分け方では、妹の土地が兄の返済状況に左右される場合があります。

債務の棚卸しは、残高証明だけでは足りない

確認するもの 確認しないと起きること
借入契約・返済予定表・団体信用生命保険 残債、期限、保険による返済の有無を誤る
抵当権・根抵当権・共同担保目録 別の自宅や土地まで担保になっていることを見落とす
保証契約・保証の対象となる債務 個人や会社の借入れに関する保証を見落とす
賃貸借契約・敷金台帳 預かったお金を、自由に分けられる現金と誤認する

保証は、特定の借入れの保証と、継続取引を対象とする根保証を区別します。個人根保証には死亡による元本確定の規定がありますが、元本確定は、既に生じた保証債務の消滅を意味しません。 契約日による適用法の違いも確認します。敷金返還債務も、単なる銀行借入れと同じ処理をするのではなく、賃貸人の地位の承継と、返還に備える資金の引継ぎを整理します。民法465条の4・605条の2

分割までの家賃と支出を、別帳簿にする

相続開始後、遺産共有中に生じる賃料債権は、原則として各相続人が相続分に応じて取得します。後にアパートを一人が取得しても、それだけで過去の家賃を全額取得することにはなりません。最高裁平成17年9月8日第一小法廷判決

一方、修繕費・管理費・固定資産税・借入返済を誰が負担したかは、支出の性質や相続人間の合意を確認して清算します。家賃から支払ったという事実だけで、全員がその費用負担を承認したことにはなりません。ローン元本返済は、税務上の必要経費とも別です。入金口座、支出の承認方法、月次報告、最終清算の基準を、先に書面にしておくと交渉が進めやすくなります。

設例:8,000万円のアパート、残債5,000万円

※説明のための架空事例です。実際の受任実績ではありません。

相続人は兄妹2人。兄がアパートと残債を引き継ぎ、純資産3,000万円を前提に妹へ1,500万円を払う案です。しかし銀行の手続が未了なら、妹は代償金を受け取っても、銀行に対する債務から外れていない可能性があります。

確認すべきなのは代償金額だけではありません。銀行が兄への一本化を認める条件、認めなかった場合の売却等の代替案、敷金の留保、分割日までの家賃清算を合わせて決めます。

署名前の実務チェック

  • 物件を継がない人について、銀行に対する債務・保証が残らないか。
  • 修繕と空室を織り込んでも、承継後の返済と代償金支払を続けられるか。
  • 敷金、未払工事代、相続後の収支を協議書に反映したか。
  • 相続放棄も検討する場合、原則3か月の熟慮期間と財産処分の影響を確認したか。

よくあるご質問

Q.アパートだけ相続しないことはできますか。
遺産分割でアパートを取得しないことと、相続放棄は別です。相続放棄は原則として相続全体が対象で、物件を取得しない合意だけでは債務を免れません。

Q.借金が分からないまま、3か月が来そうです。
調査の状況に応じ、家庭裁判所への熟慮期間伸長の申立てを検討します。期限の直前まで待たず、いつ相続開始を知ったか、何が未判明かを整理してください。裁判所・相続放棄

明徳法律事務所への相談で整理すること

「誰が物件を取得するか」に加え、「誰が誰から請求されるのか」を図にして整理します。借入契約、登記事項証明書、直近の収支、賃貸借契約をご用意ください。銀行との調整事項と相続人間の合意事項を分け、物件を引き継ぐ人にも、引き継がない人にも、何が残るか分かる合意を目指します。

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