第140講 富裕層医師の「財産管理チーム」― 税理士・弁護士・証券・保険をどう使い分けるか
第ⅩⅣ部 医師の資産・投資・プライベートウェルス
資産管理では、税務・法務・運用・保障・承継の検討が重なることがあります。必要な専門家の人数は、資産と課題によって異なります。「財産管理チーム」とは、役割と責任を決め、必要な情報を共有し、方針の食い違いや確認漏れを減らすための仕組みです。
この講では、専門家の業務範囲、相談先の使い分け、全体の調整役、利益相反と情報共有、定期的な点検を整理します。全員を常時そろえる必要はありません。自分に必要な仕事を明確にし、依頼する範囲と費用を決めることから始めます。
例えば、理事長は、顧問税理士、医療法人の顧問弁護士、証券会社の担当者、保険の募集人、不動産業者、そして最近相談を始めた独立系のウェルス・マネジメント会社の担当者を持っています。六人です。
六人は、互いを知りません。税理士は保険の中身を知らず、証券の担当者は医療法人の持分を知らず、弁護士は理事長の個人資産を知らず、保険の募集人は税理士の助言を知りません。理事長だけが六人全員を知っていますが、六人の言うことを突き合わせる時間がありません。
理事長は、六人に同じ質問をしてみました。「私が来年死んだら、何が起きますか」
六人の答えは、六通りでした。
1 各専門家がすること・しないこと
| 専門家・窓口 | 依頼できる業務と確認事項 |
|---|---|
| 税理士 | 税務代理、税務書類の作成、税務相談、会計等。税務上の評価・試算を担当する。税理士資格だけで一般の法律紛争の代理等ができるわけではないが、税務に必要な法令解釈までできないという意味ではない。兼有資格と実際の受託範囲も確認する。 |
| 弁護士 | 契約、法人の機関、遺言・相続、離婚、紛争対応等の法律事務。税理士登録や税理士法51条の通知によって税理士業務を行う場合もあり、税務を一律に扱えないわけではない。投資助言・運用等は別の規制と受託範囲を確認する。 |
| 証券会社・IFA・投資助言・投資運用業者 | 販売・仲介、投資判断の助言、一任運用は別の業務。登録・所属先・契約に応じた範囲を確認する。IFAが顧客資金を預かったり、助言契約だけで自由に売買を執行したりできるわけではない。 |
| 保険募集人 | 意向の把握、保障・貯蓄性等を踏まえた商品の説明・提案、契約手続。税の効果を無条件に保証できず、個別の税務相談等は必要な資格と業務範囲を確認する。 |
| 不動産業者 | 免許・契約に応じた売買・賃貸の仲介、管理、価格査定等。販売利益・仲介報酬等を確認する。仲介のための説明と、税務相談・紛争代理等の業務を区別する。 |
| 司法書士・行政書士 | 司法書士は登記・裁判所提出書類の作成等、認定司法書士は法定範囲の簡裁訴訟代理等も扱う。行政書士は法定範囲の官公署提出書類・権利義務書類の作成等を扱う。他法による制限があり、具体的な依頼内容と権限を確認する。 |
| ファイナンシャルプランナー | 家計・資産・生活資金の整理や専門家との橋渡し等。FP資格だけで税理士・弁護士・金融商品取引業等の業務ができるわけではない。兼有資格・登録と、相談料・販売報酬等を確認する。 |
| プライベートバンク等 | 資産全体の相談窓口となる場合もあるが、名称は資格や業務範囲を保証しない。実際の契約相手、自社業務と紹介業務の区別、報酬と責任を確かめる(第137講)。 |
2 使い分けの線
| 相談する場面 | 役割分担の例 |
|---|---|
| 法人化・機関 | 弁護士が機関・権利関係、税理士が税務・会計を検討し、登記・許認可等は適法な権限を持つ専門家に依頼する。 |
| 親族間取引・会計混同 | 税理士と弁護士が、資金の帰属、税務処理、契約、返還や利益相反の手続を整理する。 |
| 持分なし移行 | 出資者の権利、同意・定款、税務上の要件、認定・許認可の手続を分担する。税務申請と行政庁への認定申請を混同せず、各人の資格・権限を確認する。 |
| 遺言・遺留分・承継 | 弁護士等が法的設計、税理士が税務を担当し、必要に応じ登記・保険等の専門家が加わる。各人の法定業務と依頼範囲を明確にする。 |
| 離婚 | 本人の弁護士が権利・交渉を担当し、評価・税務の専門家と連携する。法人顧問との兼任は依頼者と利益相反を確認して判断する。 |
| 運用 | 登録等に応じた金融事業者に販売・助言・運用を依頼する。税務は税理士、契約上の疑問や紛争は弁護士等に相談する。 |
| 保険 | 募集人に商品説明を求め、法人税務、受取人・相続関係は必要な専門家と検討する。 |
| 不動産 | 売買・賃貸・管理の目的に応じ、不動産業者、税理士、弁護士、登記の専門家等を組み合わせる。 |
| 投資被害 | 弁護士に責任・回収手段を相談し、金融機関、ADR機関、警察等への対応を検討する。税務処理は別に確認する。 |
| 判断能力低下・死亡への備え | 本人の意思、代理権、遺言・後見・信託、税務、保険、法人の後任と診療継続を分担して検討する。 |
一つの提案でも、税額、権利関係、資金繰りの結論が食い違う場合があります。どの専門家に何を依頼したかを明確にし、抜けている検討を補います。税理士と弁護士の両方に相談することが有効な場面はありますが、全員に常時顧問契約を結ぶことが必須ではありません。
契約書の作成という名称だけで、直ちに違法な非弁行為になるわけではありません。弁護士法72条の要件と、行政書士・司法書士・税理士等の法定業務を区別します。肩書だけで業務の可否を決めず、具体的な作業、報酬、紛争の有無、他法の定め、保有資格を確認してください。
3 誰が「全体を見る人」になるか
複数の相談先を使う場合は、連絡と課題の整理を担う人を決めます。次のような候補があり、資産の所有者、依頼範囲と適性に応じて選びます。
| 調整役の候補 | 利点と確認事項 |
|---|---|
| 本人 | 自分の目的と優先順位を伝えやすい。時間・知識を補う支援を受け、法人や家族の利益・権限を自分のものと混同しない。 |
| 金融機関・資産管理相談の担当者 | 契約に含まれるなら、一覧の整理や専門家との連絡を依頼できる。販売報酬・系列先との関係、受託範囲、引継ぎと確認役を明確にする。 |
| 弁護士・税理士等 | 既に事情を知る専門家に調整を依頼する方法もある。利益相反がないとは限らず、専門外の業務まで当然に含まれない。調整業務の内容・報酬・責任を合意する。 |
本人が一覧と方針を把握し、調整役が論点・期限・担当を整理し、必要な専門家が検討する形が考えられます。定期的な全体確認に加え、大きな契約や家族・健康の変化があれば見直します。法人財産の処分等は、法人の権限・決議に従って判断します。
4 利益相反の管理
- 紹介と独立性を分ける 紹介料、提携、継続的な取引、依頼者間の関係を確認する。紹介経由だけで不適切とはいえないが、別の意見も求められる状態を保つ。
- 報酬の形を聞く 販売連動か、相談料・時間制か、残高連動か。各専門家について。
- 依頼者と利益相反を確認する 医療法人、理事長個人、配偶者、後継者は別の当事者。顧問契約や既存の受任関係を確認し、利益相反等により兼任できない場合は独立した代理人・相談先を設ける。
- 調整役の利害関係を明らかにする 報酬の支払者、紹介・販売報酬、関係会社、他の依頼者との関係を確認する。商品を売らない立場でも利益相反がないとは限らない。
5 チームの運営 ― 年1回、同じ表を見る
財産管理チームの年次確認
- 一覧を更新する 個人・法人・家族の名義を分け、評価日、借入・保証、契約と連絡先を整理する。家族の財産は本人の同意なく自由に収集・共有できるものとは考えない。
- 必要な相手と情報を共有する 議題ごとに必要な専門家を選び、本人・関係者の同意、守秘、共有目的・範囲、保管方法を確認する。全財産の情報を全員へ無条件に渡さず、対立する当事者の情報は分けて扱う。
- 万一の対応を具体化する 本人の死亡や判断能力低下の際、誰が何の権限で、どの期限までに動くかを整理する。意見が違えば前提と根拠を確認し、無理に一つの結論へそろえない。
- 今年の決定事項 持分の処理、遺言の更新、保険の見直し、運用方針、親族取引の見直し。誰が、いつまでに。
- 記録を残す 確認した事実、選択肢、未解決の課題、決定、担当と期限を残す。配布先と閲覧権限を管理し、口座の認証情報等は共有資料に記載しない。
- 次回の日程 1年後。院長の年齢・健康・法改正・家族の変化があれば前倒し。
6 チェックリスト ― 第ⅩⅣ部のまとめ
医師の資産管理チェックリスト
- 勧誘の電話には業者名を控え、拒否を明確に伝えている
- 投資話では、必要な登録等、契約相手、資金の使途、費用、損失・解約条件、紹介者との関係を確認している
- 同僚からの紹介に「紹介料は受け取っていますか」と聞ける
- 「先生だけに」「プロ向け」「特定投資家」を優良の証拠と考えていない
- 自分の名前が業者の営業に使われていない
保険(第134講)
- すべての保険の目的を一言で言える
- 法人契約の保険の損金区分と出口を税理士と確認した
- 賠償責任保険・就業不能保険の保障内容を確認した
- 取引報告書を受領時に確認し、定期的に総費用・入出金込みの成績・運用方針を見直している
- 理解できない商品を追加購入せず、既存商品は仕組み・費用・売却条件を確認して対応を検討している
- 担当者の報酬の連動先と継続性を知っている
- 提案は書面で受け、決定は自分で記録している
集中と分散(第138講)
- 資産の一覧を自分で持ち、緊急時の参照者・権限・保管場所を決めている
- 担当者と利害関係のない確認役がいる
- 担当者不在時の窓口と記録があり、保管先と投資対象の集中をそれぞれ点検している
資産管理会社(第139講)
- 資産管理会社があるなら、目的・株主構成・医療法人との取引・出口を説明できる
チーム(本講)
- 税務・法務を含め、必要な課題ごとの相談先と依頼範囲が決まっている
- 医療法人の顧問と個人の顧問を分ける必要がある場面を理解している
- 「全体を見る人」が決まっている
- 定期的に必要な専門家で確認し、大きな変化の際は前倒ししている
- 死亡・判断能力低下の際の権限、担当、期限と未解決の課題を整理している
7 今日やること・やってはいけないこと
今日やること
- 自分の専門家を全員書き出し、互いを知っているかを確認する
- 顧問弁護士がいないなら、法務の設計(機関・契約・遺言・持分)を誰が担っているかを問う
- 「全体を見る人」を決める。決まらなければ、当面は自分が一覧を持つ
- 年1回の全体確認の日程を、今年中に一度入れる
やってはいけないこと
- 専門家を増やすだけで、束ねる仕組みを作らない
- 専門家の資格・受託範囲を確認せず、専門外の検討まで済んだものと考える
- 紹介関係や報酬・権限を確認しないまま、同じ関係者だけにすべてを任せる
- 「全体を見る人」に一覧と決定まで丸投げする
8 よくある質問
- 顧問弁護士を持つ費用に見合う仕事が、日常にはありません。
- 継続的な相談と事情の共有に利点はありますが、必要な業務量や課題によっては、個別相談や定期点検の契約が合う場合もあります。機関・契約・承継等のどこに課題があるかを整理し、顧問に含まれる業務、追加費用、応答体制を比較してください。紛争が起きてからでは選べる対応が限られる場面もあるため、重要な契約や承継は事前に相談するとよいでしょう。
- 専門家同士を会わせると、互いに遠慮して本音を言わないのではありませんか。
- その可能性もあるため、資料と論点を事前に渡し、各人に担当分野の意見と根拠を示してもらいます。必要なら個別面談や独立した専門家の意見も使ってください。意見が違うことやその場で発言がないことだけで、不誠実とは判断できません。本人の目的に照らして、残る疑問を整理することが大切です。
- 「全体を見る人」を、懇意にしているプライベートバンクの担当者に頼みたい。
- 依頼範囲、必要な資格・登録、費用、利益相反、情報共有と引継ぎを確認できれば、候補になります。本人が一覧と方針を把握し、別の専門家が必要な点を確認する体制を保ってください。担当者が賛成したというだけで機能すると決めず、実際の報告・記録・対応を継続して確かめます。
主な法令・参考資料
- 民法
委任・善管注意義務、契約上の責任、不法行為、使用者責任等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 個人情報保護法
利用目的、要配慮個人情報、委託・第三者提供、保有個人データの開示等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
- 金融商品取引法
登録・勧誘規制、個人の特定投資家への移行(34条の4)。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025
- e-Gov法令検索:宅地建物取引業法
2条・35条。直接賃貸と代理・媒介、重要事項説明。
https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176 - e-Gov法令検索:保険業法
保険募集の主体、情報提供、意向把握、禁止行為、撤回等。
https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000105 - e-Gov法令検索:金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律
最善利益を勘案する義務、説明義務と損害賠償。
https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000101 - e-Gov法令検索:税理士法
2条・38条・51条・52条等。業務、守秘、通知弁護士、業務制限。
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000237 - e-Gov法令検索:司法書士法
3条等。登記・裁判所提出書類、認定司法書士の代理権の範囲。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197 - e-Gov法令検索:行政書士法
1条の3・1条の4・19条等。書類作成等と業務制限。
https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC1000000004 - e-Gov法令検索:弁護士法
23条・25条・72条等。守秘、職務を行えない事件、法律事務の制限。
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205