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『企業内部紛争36講 ― 経営権争いの教科書 ―』【第1講】

内紛はどこから始まり、どう広がるか―何を守り、どの手続で、どこを目指すか―

第1講 内紛はどこから始まり、どう広がるか|明徳法律事務所

第1講全体像と初動

内紛はどこから始まり、どう広がるか

何を守り、どの手続で、どこを目指すか

明徳法律事務所 弁護士 坂本龍亮読了目安 17分

この講の結論

会社の内紛は、「経営権争い」という一つの問題ではなく、株式の帰属、議決権、機関の意思決定、代表権、資金・情報の管理、そして司法による救済という、根拠の異なる複数の問題が重なったものです。最初に「誰の、どの権利を、何から守るのか」を切り分け、期限のある手続と、止まってはいけない事業の運営を同時に確認することが、初動のすべての出発点になります。

「会社の内紛」を法律問題に分解する

この連載でいう企業内部紛争とは、株主、役員、会社、元役員、創業者の親族などの間で、経営への関与、会社財産の使い方、利益の分配、退出の条件をめぐって生じる争いをいいます。相談の場では「経営権を取られた」「経営権を守りたい」という言葉で語られることが多いのですが、「経営権」という一つの権利は、会社法のどこにも定められていません。

株主として株主総会で議決権を行使できること、取締役として業務執行の決定に加われること、代表取締役として会社を代表して契約を結べること、これらはそれぞれ別の根拠に基づく、別の権限です。株主総会の議決権は株式に付いてくる権利であり(会社法105条1項3号)、取締役の権限は株主総会での選任によって生じます。代表権は、取締役会設置会社では取締役会による代表取締役の選定によって生じ(362条3項)、取締役会を置かない会社では、代表取締役を定めない限り各取締役が会社を代表します(349条1項・2項)。過半数の株式を持つ人が代表取締役でないことも、代表取締役が一株も持っていないことも、法律上は何ら珍しくありません。

だからこそ、「会社の内紛」は、まず「どの権限が、誰にあり、それが今どのように侵害されているか」という形に翻訳する必要があります。翻訳ができて初めて、どの手続を、誰の名前で、いつまでに取るべきかが決まります。

会社は当事者とは別の法人である

会社は法人です(会社法3条)。この当たり前の一文が、内部紛争ではしばしば忘れられます。会社の預金は社長個人の財産ではなく、大株主の財産でもありません。役員の不正によって会社が損害を受けたとき、その損害についての賠償請求権は会社に帰属します(423条1項)。株主が自分自身に生じた損害について役員個人に賠償を求める制度は別にありますが(429条1項)、会社の損害を株主個人が請求することは原則としてできません。株主が代表訴訟を提起して勝訴しても、賠償金は会社に支払われ、原告株主の手元には入りません(847条)。

この帰属の問題は、誰が会社を代表して請求できるかという問題と直結します。会社が取締役を相手に訴えを起こす場合、監査役設置会社では監査役が会社を代表し(386条1項)、そうでない会社では株主総会が代表者を定めることができ(353条)、取締役会設置会社であれば取締役会が定めることもできます(364条)。ここでいう「監査役設置会社」には、監査の範囲を会計に限定した監査役しか置いていない会社は含まれません(2条9号、389条1項)。中小企業の多くがこの会計限定の監査役しか置いていないため、「監査役がいるから監査役が訴えればよい」とは限らないことに注意が必要です。

逆にいえば、会社の利益と、自分の役職や持株の価値という個人の利益は、切り離して考えなければなりません。「会社のため」に始めた行動が、法律上は自分個人の請求権にしかならないこと、あるいはその逆は、内部紛争ではよく起こります。手続を選ぶ前に、守ろうとしている利益が誰のものかを確かめることが、この連載全体を通じた前提です。

この連載の対象――非上場と非公開を区別する

この連載が中心に据えるのは、発行する株式の全部について、譲渡による取得に会社の承認を要する旨を定款で定めている株式会社です。会社法はこれを「公開会社でない株式会社」と表現しており(2条5号の裏返し)、実務ではこれを「非公開会社」と呼びます。条文上の用語ではありませんが、この連載でもその呼び方を使います。

「非上場」と「非公開」は同じではありません。上場していなくても、一部の株式についてでも譲渡制限の定めがなければ、その会社は会社法上の公開会社に当たり(2条5号)、取締役会の設置が義務づけられ(327条1項1号)、募集株式の発行は、特に有利な払込金額による場合を除き、取締役会の決議で行えるようになります(201条1項)。ご自身の会社がどちらに当たるかは、登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄と定款で確認できます。

機関設計については、取締役会を置く会社と置かない会社、業務監査の権限を持つ監査役を置く会社と会計限定の監査役だけを置く会社を主に扱います。監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社、種類株式や属人的な定めのある会社では、各講の説明を読み替えたり、追加で確認したりする必要が生じます。合同会社については補講1、役員と従業員の地位が重なる場合については補講2で扱います。

非公開会社に特有のルール

非公開会社には、公開会社と異なる規律が数多くあります。内部紛争で結論を左右しやすいものを挙げておきます。

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事項非公開会社での扱い根拠
少数株主権の保有期間株主総会の招集請求、株主提案、取締役の行為の差止め、代表訴訟、役員解任の訴えについて、公開会社で求められる「6か月前から引き続き保有」の要件がない297条2項、303条3項、360条2項、847条2項、854条2項
募集株式の発行募集事項の決定は、原則として株主総会の特別決議による。株主割当ての場合も、定款の定めがなければ株主総会の決議による199条2項、202条3項4号、309条2項5号
新株発行無効の訴えの期間公開会社は効力発生日から6か月、非公開会社は1年828条1項2号
取締役の任期定款で選任後10年以内まで伸長できる332条2項
監査役の権限定款で監査の範囲を会計に限定できる。限定した場合、その会社は会社法上の「監査役設置会社」に当たらない389条1項、2条9号
株主ごとの異なる取扱い剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定められる109条2項
相続人等に対する売渡請求相続などで譲渡制限株式を取得した者に対し、会社への売渡しを請求できる旨を定款で定められる174条

これらの特則は、少数株主の側にとっては公開会社より使いやすい制度がある一方、株式の発行や定款の定めによって多数派が地位を固めやすい面もあります。特に、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法で募集株式が発行された場合、最高裁は、その手続には重大な法令違反があり、株式発行の無効原因になると判断しています(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁)。非公開会社では、株式の発行が持株比率、ひいては会社の支配を直接変えてしまうため、法は株主総会の関与を厳格に求めているのです。

誰と誰の紛争か――立場を重ねて記録する

同じ人が、株主であり、取締役であり、会社への貸主であり、銀行借入の連帯保証人であることは珍しくありません。「兄と弟の争い」「創業者と番頭の争い」という人物関係だけでは、誰がどの請求権を持ち、誰を相手にすべきかは決まりません。関係者一人ひとりについて、株主としての持株数、役員としての地位と選任時期、会社との貸借や保証の有無を一行ずつ書き出すところから始めます。

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関係典型的な争点読む講
株主と株主・会社株式の帰属、議決権の数え方、株主名簿や帳簿の閲覧第14講・第18講
役員と会社選任、解任、代表権、報酬、任期満了後の地位第7講〜第11講・第21講
会社と不正が疑われる役員資産の流出、競業、利益相反、損害の回復第17講・第20講〜第24講
創業者・後継者・親族権限の移行、利益の配分、相続による株式の分散第31講・第32講
共同経営者・退任者経営の分離、個人保証の解除、顧客と情報の持ち出し第33講〜第35講

この整理をしておくと、後の交渉や裁判で「実は相手も株主だった」「自分は取締役を退任した扱いになっていた」といった事実が後から判明して方針が崩れる事態を避けられます。登記事項証明書に記載された役員の就任日と退任日、株主名簿に記載された株主と持株数は、紛争の初期にそのまま証拠として使えるものです。

目的を一文にする

「相手を排除したい」という希望は、そのままでは法律上の請求になりません。「不正な送金を止めたい」「自分の議決権を正しく数えて総会をやり直してほしい」「会社が受けた損害を回収したい」「個人保証を外したうえで株式を売って退きたい」というところまで具体化して、初めて請求の主体、必要な証拠、裁判所に求める内容が決まります。

目的と手段の効果が食い違うこともよくあります。役員の解任は株主総会の決議でいつでも行えますが(339条1項)、解任しても相手の株式がなくなるわけではなく、正当な理由がなければ会社が損害賠償責任を負います(339条2項)。会計帳簿の閲覧は、総株主の議決権または発行済株式の3%以上を持つ株主が請求できますが(433条1項)、閲覧できるのは帳簿であって、相手の責任を確定させる制度ではありません。株主代表訴訟で回収した金銭は会社に帰属します。それぞれの手段で何が得られ、何が得られないかは、第25講の比較表で確認できます。

時間を三つに分ける

内部紛争では、性質の異なる三つの時間が同時に流れています。

第一は法定の期限です。株主総会の決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起しなければならず(831条1項)、この期間は交渉していても止まりません。しかも、期間内に訴えを提起していても、期間経過後に新たな取消事由を追加して主張することはできないとされています(最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁)。3か月のうちに、どの瑕疵を主張するかまで固めておく必要があるということです。

第二は実行の時刻です。株式の発行、会社資金の送金、重要な資産の譲渡は、実行される前であれば差止めや仮処分で止められる可能性がありますが、実行された後は、無効の主張や損害賠償という別の手段に切り替えざるを得ません。同じ事実でも、実行前と実行後では使える手続がまったく異なります。

第三は事業の時間です。給与の支払日、納税の期限、取引先との契約更新、金融機関への報告、サーバーのログや監視カメラの保存期限は、紛争の進行を待ってくれません。この時間を無視すると、たとえ裁判で勝っても守るべき事業が残っていないという結果になりかねません。

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手続期限根拠
株主総会決議取消しの訴え決議の日から3か月以内会社法831条1項
株主総会決議の無効確認・不存在確認の訴え法定の期間制限はない。ただし、取消事由にとどまる瑕疵は取消しの訴えによる必要がある830条
新株発行無効の訴え効力発生日から6か月以内(非公開会社は1年以内)828条1項2号
役員解任の訴え解任議案が否決された株主総会の日から30日以内854条1項
株主代表訴訟会社に提訴を請求した日から60日以内に会社が提訴しないとき、株主が提訴できる。60日の経過により会社に回復できない損害が生じるおそれがあるときは、直ちに提訴できる847条1項・3項・5項
譲渡制限株式の売買価格決定の申立て会社または指定買取人からの買取りの通知があった日から20日以内144条2項・7項
役員変更などの登記変更が生じた日から2週間以内915条1項
役員に対する損害賠償請求権の消滅時効権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年(改正民法の施行前に生じた債権には経過措置がある)民法166条1項

初動を「72時間」で区切って整理することがありますが、これは作業を組み立てるための目安にすぎず、法律上の猶予期間ではありません。株式発行や送金の実行が翌日に迫っているなら、その日のうちに動く必要があります。具体的な初動は第3講、証拠の確保は第4講で扱います。

経営を支える六つの確認項目

この連載では、状況を①株式の帰属、②議決権、③機関の意思決定、④代表権、⑤資金・情報・業務の管理、⑥司法による救済、の六つの項目に分けて整理します。これは理解と点検のための枠組みであり、法律が「六種類の支配権」を定めているわけではありません。

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確認項目確認する内容主な根拠
①株式の帰属誰が何株を持つか。名義と実質のずれ、譲渡承認を経ていない譲渡、相続で分散した株式の扱い125条、136条、174条
②議決権普通決議・特別決議の要件、定款による定足数の変更、役員選解任の特則309条1項・2項、341条
③機関の意思決定株主総会と取締役会の権限の分配、取締役会非設置会社での取締役の過半数による決定295条、348条2項、362条、369条
④代表権誰が会社を代表して契約や訴訟を行えるか。取締役会による選定・解職と、定款による株主総会での選定349条、362条2項3号・3項
⑤資金・情報・業務の管理忠実義務、競業・利益相反取引の承認(取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社では株主総会)、帳簿や議事録へのアクセス355条、356条、365条、371条、433条
⑥司法による救済差止め、仮処分、決議の効力を争う訴え、責任追及の訴え210条、360条、830条、831条、847条、民事保全法23条2項

大株主であっても銀行口座を直接操作できるとは限りませんし、会社の実印を金庫に保管している人に代表権があるとは限りません。事実上の管理と法的な権限のずれを見つけ出し、適法な決議、権限の引継ぎ、必要な裁判手続を組み合わせて埋めていくのが、内部紛争への対処の基本です。

④の代表権について一つ補足します。取締役会設置会社では取締役会が代表取締役を選定・解職しますが(362条2項3号)、非公開会社であれば、取締役会の決議のほかに株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めは有効とされています(最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁)。定款にこの定めがあるかどうかで、株主総会の多数派が代表者を直接決められるかが変わりますので、定款の確認は欠かせません。

⑥については、裁判所が発する「仮の地位を定める仮処分」(民事保全法23条2項)が、内部紛争では中心的な役割を果たします。取締役の職務執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分が発令されると、その内容は裁判所書記官の嘱託によって登記され(同法56条)、職務代行者は、仮処分命令に別段の定めがない限り、会社の常務に属しない行為をするには裁判所の許可を要します(会社法352条1項)。なお、決議取消しの訴えをはじめとする会社の組織に関する訴えは、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄とされており(835条1項)、これを本案とする仮処分もその裁判所に申し立てることになります(民事保全法12条1項)。

解決の形を早い段階から考える

内部紛争の解決は、必ずしも一方が会社から去ることを意味しません。権限を明確に分け直して共同経営を続ける、一方が経営から退いて株主にとどまる、株式を売買して資本関係を解消する、事業を分割して別々に経営する、第三者に会社ごと売却する、解散して清算するなど、選択肢は複数あります。

どの形を目指すかは、適法性、事業を続けたときに残る価値、資金調達の見通し、経営者個人が負っている保証、従業員と取引先への影響を並べて判断します。裁判で勝てるかどうかだけでなく、判決が出た後に誰が何を実行するのか、相手が判決に従わなかったときにどう執行するのかまで含めて設計しなければ、勝訴判決が紙の上の結論に終わることがあります。

非公開会社では、株式の売却先が限られるため、「退きたい側」に出口がないことが紛争を長引かせる原因になります。譲渡制限株式の譲渡承認と会社または指定買取人による買取りの手続(136条以下)、相続人等に対する売渡請求(174条)、総株主の議決権の90%以上を持つ特別支配株主による株式等売渡請求(179条1項)といった制度のほか、業務の執行が著しく困難で回復できない損害が生じるおそれがあるときなどに、やむを得ない事由があれば、10%以上の株主が会社の解散を請求できる制度もあります(833条1項)。これらは、紛争の早い段階で「最終的にどの出口を使うのか」を考えるときの材料になります。和解の際に定めておくべき項目は第35講で扱っており、その内容は紛争の初期に方針を立てるときにもそのまま使えます。

三つの連載の使い分け

この連載は「紛争が起きたとき、何を確認し、どう対処するか」を担います。株式の帰属、評価、譲渡、相続、換金といった株式そのものの問題は『非上場株式27講』が、平時の機関設計や会社運営のルールは『非公開会社の会社法』が扱います。各講の末尾に隣接する論点への案内を置いていますので、必要に応じて行き来してください。

PRACTICE NOTE

最初の相談までに手元に置きたい資料

紛争の全体像を短時間で把握するために、次の資料を揃えておくと、初回の打合せで方針の大枠まで話を進めやすくなります。手元にないものがあっても構いません。「誰が持っているか」「なぜ手元にないか」自体が、状況を示す情報になります。

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資料確認できること
登記事項証明書(履歴事項全部証明書)公開会社か否か、機関設計、役員の就任・退任の履歴、代表者。法務局で誰でも取得できる
定款(最新のもの)譲渡制限、定足数や決議要件の変更、取締役の任期、代表取締役の選定方法、属人的な定め、売渡請求の定め
株主名簿株主と持株数。作成されていない、または実態と合っていない場合はその事実自体を記録する
株主総会・取締役会の議事録役員の選任、報酬の決定、重要な取引の承認の有無と経緯
直近数期分の計算書類と勘定科目内訳書役員貸付金、役員借入金、関係会社との取引、資金の流れ
金融機関との契約書、保証契約書誰がどの債務を保証しているか。経営から退く際の条件に直結する
株式の取得経緯を示す資料設立時の出資、譲渡契約書、譲渡承認の記録、相続関係の資料。名義株の疑いがある場合は特に必要になる

これらのうち、登記事項証明書は誰でも取得できますが、定款、株主名簿、議事録、計算書類は会社が保管しているものです。株主は、請求の理由を明らかにして株主名簿の閲覧・謄写を請求でき(125条2項)、計算書類についても閲覧を請求できます(442条3項)。取締役会の議事録は権利行使のために必要があるときに閲覧を請求できます(371条2項。監査役設置会社等では裁判所の許可を要します。同条3項)。相手方が会社を管理しており資料の提出を拒む場合には、これらの請求権を使うことも、初動の一部になります。

実務チェック

  • 自分、相手、会社のそれぞれについて、株主・役員・債権者・保証人としての地位と、それに基づく請求権を分けて書き出す。
  • 会社が公開会社か非公開会社か、取締役会と監査役の有無、監査役の権限が会計に限定されているかを、登記と定款で確認する。
  • 決議の日、効力発生日、予定されている取引の実行日、法定の提訴期限を一枚の時系列に並べる。
  • 登記事項証明書、定款、株主名簿、役員の選任資料、直近の計算書類を確保し、手元にないものは誰が持っているかを記録する。
  • 希望する解決の形と、合意に至らなかった場合の代替案を、別々に検討しておく。

よくある質問

株式を過半数持っていれば、会社は自由に動かせますか。

そうとは限りません。株主総会の普通決議は、定款に別段の定めがない限り、議決権の過半数を持つ株主が出席し、その出席株主の議決権の過半数で成立しますが(309条1項)、定款変更や事業譲渡、非公開会社での募集株式の発行などは、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する特別決議が必要です(309条2項)。取締役会設置会社では、株主総会で決議できる事項は法律と定款で定めた事項に限られ(295条2項)、業務執行の決定は取締役会か、その委任を受けた取締役が行います(362条2項1号・4項)。過半数の株式があっても、取締役会の構成や代表取締役が誰かによって、実際に会社を動かせるかどうかは変わります。また、会社財産を私的に処分する権限は、持株比率がいくらであっても生じません。

取締役会の決議にも、3か月という期限はありますか。

取締役会の決議については、株主総会の決議取消しの訴え(831条)のような、期間を限って争う特別の制度は設けられていません。取締役会決議の瑕疵は、一般の民事訴訟で無効の確認を求めたり、その決議に基づいて行われた行為の効力を争ったりする形で問題になります。ただし、取締役会の決議に基づいて行われた新株発行などには、その行為自体を争う訴えの期間制限があるため(828条1項)、期限がないと考えてよいわけではありません。

相手が勝手に役員変更の登記をしてしまいました。登記どおりの状態になってしまうのですか。

登記は、法律上の変更を第三者に主張するための手続であって、登記をすれば実体のない決議が有効になるわけではありません。株主総会の決議がないのに役員変更の登記がされた場合には、決議の不存在確認の訴え(830条1項)などで争うことになります。他方で、登記には第三者との関係で一定の効力があり、故意または過失によって事実と異なる登記をした者は、その事実が虚偽であることを善意の第三者に主張できません(908条2項)。取引先や金融機関が登記を信頼して行動する可能性がある以上、登記の是正は急ぐ必要があります。

裁判より和解を優先すべきですか。

一律には決まりません。違法な行為を止めるための仮処分や、期限内の訴えの提起を進めながら、並行して事業を維持できる合意を探るという進め方が、実際には多くとられます。交渉の最中であっても、法定の期限は別に管理しておかなければなりません。「話し合いをしているのだから、期限は待ってもらえる」という考えは通用しません。

この講の主な根拠条文・裁判例

  • 会社法〔e-Gov法令検索〕2条5号・9号、3条、105条、109条、125条、136条、144条、174条、179条、199条、201条、202条、210条、295条、297条、303条、309条、327条、332条、339条、341条、348条、349条、352条、353条、355条、356条、360条、362条、364条、365条、369条、371条、386条、389条、423条、429条、433条、442条、828条、830条、831条、833条、835条、847条、854条、908条、915条
  • 民事保全法〔e-Gov法令検索〕12条1項、23条2項、56条
  • 民法〔e-Gov法令検索〕166条1項
  • 最判昭和51年12月24日民集30巻11号1076頁株主総会決議取消しの訴えにおいて、提訴期間経過後に新たな取消事由を追加して主張することは許されないとした判例
  • 最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法で募集株式の発行がされた場合、その瑕疵は株式発行の無効原因になるとした判例
  • 最決平成29年2月21日民集71巻2号195頁取締役会設置会社である非公開会社において、取締役会の決議によるほか株主総会の決議によっても代表取締役を定めることができる旨の定款の定めを有効とした決定

条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例の原文は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索で裁判年月日から確認できます。

公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日

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