第28講裁判・保全・刑事対応
株主総会が開かれる前にできること
総会期日から逆算する保全
この講の結論
株主総会が開かれれば、役員が入れ替わり、定款が変わり、増資や事業譲渡が決まります。総会の後に決議を争う手段は第13講で扱いましたが、決議の前に裁判所の関与を求める手段もあります。総会そのものの開催を禁止する仮処分、特定の議案の決議を禁止する仮処分、争いのある株式について議決権の行使を禁止し、または行使を認めさせる仮処分です。介入の範囲が広いほど会社の運営への影響も大きく、裁判所は、決議取消しの訴えなど事後の救済で足りないか、違法な決議がされる高度の蓋然性があるかを厳しく見ます。総会全体を止める必要があるのか、争いのある票への対応で足りるのかを見極め、どの権利を根拠に、誰に対して、何を命じてもらうのかを、招集通知が届いてからではなく、招集の兆候が見えた段階から逆算して準備することが、この講の主題です。
三つの対象を分ける
総会前の保全は、対象によって三つに分かれます。開催禁止の仮処分は総会全体を対象とし、決議禁止の仮処分は特定の議案を対象とし、議決権行使禁止(または許容)の仮処分は特定の株式の投票を対象とします。会社法に「株主総会の開催を差し止める請求権」が一般的に定められているわけではなく、開催禁止や決議禁止の被保全権利は、招集手続や決議の方法が法令・定款に違反することを理由とする取締役の違法行為差止請求権(360条。公開会社では6か月の継続保有が要件となり、監査役設置会社などでは会社に「回復することができない損害」が生ずるおそれが必要です。監査役が申し立てる場合は385条で、担保を立てさせない特則があります。第27講)として構成するのが通例で、この構成では債務者は会社ではなく取締役です。招集の権限のない者が総会を招集した場合には、取締役の行為の差止めという構成が使えないため、会社が債権者となって招集者に対し開催の禁止を求める構成や、株主としての地位に基づく構成が用いられます。
東京高裁は、総会の開催禁止が認められるのは、その総会の開催を許すと、決議の成否を左右し得る議決権を有する株主が決議から違法に排除されることになるなどのために、違法もしくは著しく不公正な方法で決議がされることなどの高度の蓋然性があり、その結果、会社に回復困難な重大な損害を被らせ、これを回避するために開催を禁止する緊急の必要性がある場合に限られるとしています(東京高決平成17年6月28日判時1911号163頁)。他方で、狭い命令なら必ず認められるという関係でもなく、議決権行使禁止の仮処分も、株式の帰属についての本案の見通しと、その票が決議の結果を左右することの疎明が要ります。
株式の帰属と投票の権利
議決権をめぐる仮処分で争点になるのは、名義株の実質的な帰属(第14講、関連連載の非上場株式27講・第6講)、譲渡の成立と譲渡承認の有無、株券発行会社における株券の交付、相続による準共有と権利行使者の指定(106条)、そして瑕疵のある新株発行によって生じた株式の効力(第16講)です。株式が誰のものかという問題と、その者が会社に対して議決権を行使できるかという問題は別であり(130条)、どの総会のどの株式についてどの権利を争うのかを特定します。
議決権行使禁止の仮処分は、本案によって構成が分かれます。株式の帰属を争う場合には、株主権の確認を本案として、相手方株主に対して議決権の行使を禁止し、あわせて会社に対してその者に議決権を行使させないことを命じる形が典型です。新株発行の無効や不存在を争う場合には、新株発行無効の訴えや不存在確認の訴えを本案として、会社を債務者に、その新株について議決権を行使させないことを命じます。全株式譲渡制限会社の第三者割当てについて、募集事項を決定する株主総会決議を欠くことが無効事由となり、その新株の議決権が経営権の帰趨を左右する事案で、会社法の下で議決権行使禁止の仮処分を認めた公刊裁判例として最初のものとされる決定があります(東京地決平成24年1月17日金判1389号60頁)。これとは逆に、会社が申立人を株主として扱わない場合に、その議決権の行使を認めさせる仮処分(議決権行使許容の仮処分)を求めることもあります。会社に積極的な行為を命じ、本案で得られる結果をそのまま先取りする点で満足的仮処分の性格が強く、株主であることについて高い程度の疎明が求められます。
いずれの場合も、誰を相手方(債務者)にするかを間違えないことが重要です。相手方株主だけを債務者とする命令は、会社に直接の義務を課しません。総会の運営を担うのは会社ですから、会社にも義務を課す形にしなければ、当日の議決権の処理を拘束できません。逆に、会社だけを債務者とすれば、相手方株主は命令の名宛人ではないため、その者が当日に議決権を行使しようとした場合の扱いが曖昧になります。実務では、株主と会社の双方を債務者とし、申立ての趣旨を対応させます。
保全の必要性
総会が開かれるという事実だけで開催禁止が必要になるわけではありません。裁判所が見るのは、争いのある票で決議の結果が変わるのか、その決議によってどのような役員の交代や資産の処分が実行されるのか、そして総会の後に決議取消しの訴えや職務執行停止の仮処分で対応することでは、なぜ足りないのかです。少数株主が裁判所の許可を得て招集した臨時総会について、招集株主が議決権を行使した株主に金券を贈与すると表明したことを理由に監査役が会社を債務者として開催禁止を求めた事案で、東京高裁は、贈与の表明は招集手続の一部ではなく招集手続を直ちに違法とするものではないとしたうえ、決議取消しの訴えとそれに伴う職務執行停止の仮処分で是正が可能であること、金券の贈与が決議に影響を与えるかは議決の全体の状況によるもので現時点で確定できないこと、開催禁止は少数株主の権利行使の機会を一方的に奪う危険が大きいことを挙げて、保全の必要性を否定しました(東京高決令和2年11月2日金判1607号38頁)。
真実の株主に招集通知を発せず名義上の株主に通知を発することが招集通知に関する法令(当時の商法232条1項)に違反すると認めながら、総会の開催によって会社に回復困難な重大な損害を被らせることの疎明がないとして開催禁止を却下した例もあります(旧商法272条の差止請求権を被保全権利とした事案。東京地決平成17年11月11日[出典])。違法性の疎明と、保全の必要性の疎明は別であり、後者では、その決議が実行されると何が起きるか、事後の救済ではなぜ間に合わないかを、事案に即して具体的に示さなければなりません。役員の改選が争点である場合には、決議取消しの訴えの係属中に任期が満了して次の総会で改選されると訴えの利益が失われる(第13講)という事情が、事後の救済の限界を示す材料になります。
総会までの日程
招集通知は、公開会社では総会の日の2週間前までに、非公開会社では1週間前まで(書面または電磁的方法による議決権行使を定めた場合は2週間前まで。取締役会を置かない非公開会社では定款でさらに短縮できます)に発しなければなりません(299条1項)。「発する」時点が基準ですから、通知が手元に届いてから総会までの余裕は、1週間を切ることも珍しくありません。非公開会社の内紛では、通知が届いてから仮処分の準備を始めたのでは、審尋を経て発令されるまでに総会の日が来てしまいます。
したがって、招集の兆候が見えた段階、たとえば取締役会で臨時総会の招集が議題になった、少数株主が招集請求をした、相手方が株主名簿の閲覧を求めてきたといった時点で、株式の取得を示す資料、議決権の一覧表(第14講)、役員の履歴、そして申立ての骨格を整えておきます。取締役会での招集決定や裁判所の招集許可(297条4項)などによって対象となる総会の日時と議案が特定できれば、通知が届く前でも申し立てることができます。審尋の期日(民事保全法23条4項)は相手方の都合と裁判所の日程で決まり、発令までの期間を固定的に見込むことはできませんから、総会の日から逆算して、間に合う最後の申立て時期を把握しておきます。
総会検査役という選択肢
総会の手続を止めるのではなく、記録することを目的とするのが、第19講で扱った総会検査役です。会社または総株主の議決権の1%(定款で引き下げられます)以上の議決権を有する株主(公開会社である取締役会設置会社では6か月前からの継続保有が必要)は、総会に先立って、招集の手続と決議の方法を調査させるための検査役の選任を申し立てることができます(306条)。ここで必要なのは議決権の1%であり、株主提案権の「300個以上」という代替の要件(303条2項)とは別ですから、混同しないようにします。
検査役は、総会に出席して、受付での株主の確認、委任状や議決権行使書の扱い、定足数と賛否の集計、議長の議事運営を調査し、裁判所に報告します。株式の帰属を確定する制度でも、総会の進行を差し止める制度でもありませんが、争いのある票がどう扱われ、採決がどう行われたかが第三者の報告書に残ることで、総会後の決議取消しの訴えでの立証が容易になります。仮処分が間に合わない、または認められる見込みが低い場合の現実的な選択肢であり、会社の側が自ら申し立てて手続の適法性を記録させることもあります。
当日の運営と記録
仮処分の命令がある場合、会社は、主文、当事者、対象となる株式、対象となる総会、効力の及ぶ範囲を確認して運営します。会社を債務者とする命令に反して議決権の行使を認め(または拒み)、それが決議の結果に影響すれば、その決議は決議方法の法令違反として取消しの対象になり得ると解されています。会社が債務者でない命令は会社を直接拘束しませんが、相手方株主が命令に反して行使した議決権を会社が有効なものとして算入すれば、その扱いの当否が総会後の取消訴訟で争点になります。命令の内容を踏まえ、算入した場合としなかった場合の双方の集計を残しておくのが安全です。
命令がない場合、会社は株主名簿、譲渡承認の記録、株券、相続の資料など手元の資料に基づいて、誰に議決権を認めるかを自らの責任で判断します。株券発行会社では、名義書換未了の譲受人を会社の側から株主として扱うことが判例上認められていますが(最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁。第14講)、株券不発行会社では株主名簿が会社以外の第三者に対する対抗要件でもあるため(130条1項)、会社の側から名簿に記載のない者を株主と扱えるかには争いがあります。いずれにせよ、争いのある票についての判断の根拠を記録し、双方の集計を残しておきます。異議の内容、出席を拒んだ経緯、委任状の扱い、賛否の数、議長の判断は、議事録とは別に当日の記録として保存します。仮処分が却下されたというだけで、本案でも同じ結論になるとは限りませんから、却下の理由が違法性の欠如なのか保全の必要性の欠如なのかを確認したうえで、総会後の争いに備えます。
総会後へ切り替える
表は横にスクロールできます。
| 時点 | 主な作業 |
|---|---|
| 招集の兆候・通知受領時 | 株式の資料と議決権一覧の整備、議案の確認、総会の日からの逆算、保全の根拠と相手方の特定 |
| 総会前 | 仮処分または総会検査役の申立て、出席と異議の準備、委任状や議決権行使書の確認 |
| 総会当日 | 命令の反映、争いのある票の扱いの記録、採決の数と議長の判断の保存、異議の陳述 |
| 総会後 | 決議取消し・無効・不存在の訴え、職務執行停止など後続の保全、登記への対応(第10講)、業務の引継ぎ |
決議取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(831条1項)。総会前に仮処分を申し立てたことや、その結果を待っていたことによって、この期間が延びることはありません。総会前の保全に力を注いだ結果、総会後の期限を見落とすことがないよう、総会の日が決まった時点で3か月後の期限を記録しておきます。仮処分で争った株式の帰属は、本案で確定するまで暫定的なものにとどまりますから、総会後も株主権確認や新株発行無効の本案を進めます。
PRACTICE NOTE
争いのある票で結果が変わるか
【設例】議決権100個の会社で、A側が45個、B側が35個を持ち、残る20個は帰属と行使の権限に争いがあります。全員が出席する普通決議では、20個がA側に加われば65対35、B側に加われば45対55となり、20個の扱いによって結果が逆転します。争いのある票をどちらにも算入せず、A側45・B側35で採決すればA側の議案が可決されますが、20個の株主が出席を拒まれたとすれば、その者から決議方法の法令違反が主張されます。
この計算は、争点の重要性を示す出発点であって、それだけで保全の要件を満たすわけではありません。20個の株式について、どちらの側にどのような権利の根拠があるのか、会社に対する権利行使の要件(名義書換、承認、権利行使者の指定)を満たしているのか、命令の相手方を誰にするのか、決議が実行されるとどのような損害が生じるのかを示して、初めて申立ての形が整います。争いのある20個を母数に含めるか含めないかで定足数と過半数の基準も変わりますから、第14講の方法で複数の計算を用意しておきます。
実務チェック
- 開催禁止・決議禁止・議決権行使禁止(許容)のどれを求めるのかを、本案の権利と対応させて決め、株主と会社の双方を債務者にするかを検討する。
- 争いのある票で結論が変わることを数値で示し、事後の救済(決議取消し、職務執行停止)では足りない理由を具体的に説明する。
- 招集通知の発信から総会までの期間(299条1項)を前提に、招集の兆候の段階から資料と申立ての骨格を準備する。
- 仮処分が間に合わない場合に備え、総会検査役の申立て、当日の記録、異議の陳述を準備する。
- 総会の日から3か月の決議取消しの期限と、本案(株主権確認、新株発行無効)の進行を、保全とは別に管理する。
よくある質問
総会開催禁止の仮処分が却下されたら、もう争えませんか。
却下の理由によります。多くの却下は保全の必要性がないという理由であり、招集や決議の違法性が否定されたわけではありません。総会当日の記録を残し、決議の日から3か月以内に取消しの訴えを提起し、必要なら職務執行停止の仮処分を申し立てます。
議決権行使禁止の命令があれば、その株式はなくなりますか。
なくなりません。命令は、特定の総会における議決権の行使を暫定的に制限するものであり、株式の帰属や存在を確定するものではありません。帰属や効力は本案の判決で決まり、仮処分は本案が確定するまでの暫定的な措置にとどまります。
相手方が招集した総会に出席すると、決議を認めたことになりませんか。
なりません。出席して異議を述べ、争いのある票の扱いや採決の方法について意見を記録に残しておくことは、後の決議取消しの訴えで手続の瑕疵を立証するうえで有利に働きます。欠席すれば、出席議決権の母数が減って相手方だけで可決される結果になることもあります(第14講)。
この講の主な根拠・判例原文
- 会社法〔e-Gov法令検索〕106条、130条、297条4項、299条1項、303条2項、306条、360条、385条、828条、829条、831条1項
- 民事保全法〔e-Gov法令検索〕23条2項・4項
- 東京地決平成17年11月11日〔裁判所ウェブサイト〕真実の株主に招集通知を発しないことは招集通知に関する法令に違反するとしながら、総会の開催によって会社に回復困難な重大な損害を被らせることの疎明がないとして、株主総会の開催禁止の仮処分の申立てを却下した裁判例(旧商法下)
- 東京高決平成17年6月28日判時1911号163頁株主総会の開催禁止の仮処分は、違法または著しく不公正な方法で決議がされる高度の蓋然性があり、会社に回復困難な重大な損害を被らせることを回避する緊急の必要性がある場合に限られるとした裁判例
- 東京高決令和2年11月2日金判1607号38頁少数株主が招集した臨時総会について、決議取消しの訴えと職務執行停止の仮処分による是正が可能であることなどを理由に、開催禁止の仮処分の保全の必要性を否定した裁判例
- 東京地決平成24年1月17日金判1389号60頁全株式譲渡制限会社の第三者割当てについて、募集事項を決定する株主総会決議の不存在を無効事由とし、新株発行無効の訴えを本案として議決権行使禁止の仮処分を認めた裁判例
- 最判昭和30年10月20日民集9巻11号1657頁名義書換未了の株式譲受人を会社の側から株主として扱うことを認めた判例(株券発行会社の事案)
条文のリンクは法令本文へ移動します。記載の条番号から各規定をご覧ください。裁判例のうち裁判所ウェブサイトに掲載されているものは、裁判例検索で裁判年月日から原文を確認できます。旧商法下の判例は、判断の前提と現行法との違いに注意してお読みください。
公開日 2026年7月1日/改訂日 2026年8月1日/改訂日 2026年9月21日