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『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【補講1】

士業法人はどこまで同じでどこから違うのか ― 8士業法人の横断比較【士業法人マトリクス】

『税理士法人・社労士法人の内部紛争30講 ― 共同経営「解消」の教科書 ―』【補講①】

S1補講補講①

士業法人はどこまで同じで、どこから違うのか
― 8士業法人の横断比較【士業法人マトリクス】 ―

弁護士法人は1名でも存続できますが、法人に対する除名の懲戒は解散事由です。一方、税理士法人は社員が1名の状態で6か月、監査法人は公認会計士社員が4名以下の状態で6か月が続くと解散します。同じ士業法人でも、存続、責任、業務資格の条件は異なります。

「士業法人」という同じ呼び名の下で、8つの法人制度は、驚くほど同じ骨格と、驚くほど違う細部を持っています。本補講は、弁護士・司法書士・行政書士・監査・弁理士・土地家屋調査士・税理士・社労士の8法人を一枚のマトリクスに並べ、この連載の議論がどこまで他士業に通用し、どこから通用しないのかを検証します。条文は、いずれも現行法をe-Gov法令検索の原文で照合した上で引用しています。

1 共通の土台 ― 8法人はすべて「合名会社型」

8法人には、人的会社の脱退・払戻し・訴えによる除名等を取り込んだ共通点があります。ただし、全てが会社法580条1項を同じ形で準用するわけではありません。社労士法25条の15の3等の独自の責任規定、有限責任監査法人、指定・特定社員の特則を確認します。定款変更についても、各法律の条文と別段の定めの有無を確認します。

本編の論点整理は、他士業の紛争を検討する出発点になります。しかし、準用される条項、責任、資格者の人数、業務範囲、定款の文言が異なる以上、結論がそのまま当てはまるとは限りません。第8講の除名、第12・13講の評価も、対象法人の規定と事実に対応させて読みます。

その上で、違いは4つの領域に集中しています。順に見ます。

2 違い① 最低社員数と存続要件 ― 「2人必要」は税理士法人だけ

第4講で見た「社員が1人になって6か月で当然解散」という税理士法人の時計は、8法人の中でどれほど特殊なのか。答えは「かなり特殊」です。

現在、設立に複数の社員を要するのは2法人だけです。税理士法人は、社員になろうとする税理士が「共同して」定款を定めるものとされ(税理士法48条の8第1項)、社員が1人になったまま6か月続くと解散します(48条の18第2項)。監査法人は、さらに重く、社員になろうとする者のうちに5人以上の公認会計士を含まなければならず(公認会計士法34条の7第1項)、公認会計士である社員が4人以下になったまま6か月続くと解散します(34条の18第2項)。

残る6法人は1名で設立でき、社員数が1名であること自体は解散事由になりません。もちろん、社員の欠亡以外にも合意、合併、破産、裁判、処分等の解散事由があります。一人法人化の主な改正時期は次のとおりです。

表1 一人法人化の年表

法人 一人法人が可能になった時期
弁護士法人制度創設時(平成13年改正・平成14年4月施行)から可能
社労士法人平成26年法律第116号(平成28年1月1日施行)
司法書士法人・土地家屋調査士法人令和元年法律第29号(令和2年8月1日施行)
行政書士法人令和元年法律第61号(令和3年6月4日施行)
弁理士法人(旧・特許業務法人から名称変更)令和3年法律第42号(令和4年4月1日施行)
税理士法人・監査法人現在も複数社員(税:2人以上/監査:会計士5人以上)が必要

税理士法人では、脱退後の社員数と、各事務所の常駐を同時に確保する必要があります。監査法人では公認会計士社員数を数えます。1名で存続できる法人でも、特定業務の資格者や事務所の常駐要件を失う場合があるため、人数だけで継続可能と判断しません。

3 違い② 責任の切り方は3類型 ― 指定社員・特定社員・切れない型

全社員の無限連帯責任という土台は共通ですが、その責任を一部の社員に「切り分ける」仕組みの有無と型は、法人ごとにはっきり分かれます。3類型に整理できます。

(a)事件単位で切る「指定社員」型 ― 弁護士・弁理士・無限責任監査法人

指定社員制度では、対象事件・証明、社員の指定、依頼者等への通知、指定がない場合の扱いを各条文で確認します(弁護士法30条の14・30条の15、弁理士法47条の3・47条の4、公認会計士法34条の10の4・34条の10の6)。責任が限定される債務の相手方・範囲も法人類型ごとに異なります。指定を受けていない社員でも業務に関与した場合に責任を負う規定があるため、「指定されていないから一切責任がない」とは判断できません。

(b)業務類型単位で当然に切れる「特定社員」型 ― 司法書士・調査士・社労士

司法書士法人では、簡裁訴訟代理等関係業務に関する債務について、その業務を行える社員(特定社員)だけが無限連帯責任を負います(司法書士法38条4項)。土地家屋調査士法人の民間紛争解決手続代理関係業務(土地家屋調査士法35条の3第4項)、そして社労士法人の紛争解決手続代理業務(社労士法25条の15の3第4項〜6項)も同じ型です。事件ごとの指定や依頼者への通知は不要で、業務の類型によって、責任を負う社員の範囲が法律上当然に決まります。社労士法人の特定社員の責任には、脱退後の紛争にとって見逃せない特則もあります(脱退した特定社員も含まれ、612条の2年ルールの適用が外れる部分がある)。詳細は補講③で扱います。

(c)一切切れない型 ― 税理士・行政書士

税理士法人には、指定社員も特定社員もありません。すべての債務について、全社員が無限連帯責任を負うだけです。そして行政書士法人には、興味深い「ねじれ」があります。特定業務(特定行政書士に係る業務)については、業務を執行する権限は特定社員だけに限定されるのに(行政書士法13条の12第2項)、責任を特定社員に限定する規定はないのです(13条の21第1項は会社法580条1項をそのまま準用しています)。執行できない業務の債務まで、全社員が無限連帯で負う。司法書士法38条4項のような責任限定の明文を欠くことによる、条文構造上のねじれです。

退社後の責任は、各法人の特則と612条を照合します。612条は、脱退登記前の債務について、登記後2年内に請求又は予告をしなかった債権者に対する責任を消滅させる規定です。指定・特定業務の債務には、この規定の適用を外す特則があります。個別保証や本人の不法行為責任も別に確認します(第3講・補講③)。

4 違い③ 監査法人だけの特例 ― 法人ごと有限責任にできる唯一の類型

8法人の中で、監査法人だけが持つ特例が2つあります。

有限責任監査法人は、公認会計士法34条の24の登録等を経る制度です。社員の法人債務に対する原則的責任は、出資価額から履行済みの出資価額を除いた額が限度です(34条の10の6第7項)。ただし、特定証明について指定有限責任社員が連帯責任を負う8・9項、指定外でも業務に関与し、注意を怠らなかったことを証明できない社員の10項等の例外があります。供託・保険等の財務上の規律も必要です。「有限責任」の名称だけで、担当業務に関する個人責任がなくなるわけではありません。

監査法人の「特定社員」は、公認会計士ではなく、34条の10の8の登録を受けた社員を指します。誰でも無条件に加入できるわけではなく、登録要件と社員構成の割合等を確認します。社労士法人等で特定の代理業務を執行できる社員をいう「特定社員」とは意味が異なります。

5 違い④ 脱退・競業・常駐・監督 ― 弁護士法人だけが別世界

法定脱退 ― 「業務停止で抜けるか」が分かれる

法定脱退事由(第6講)の作り方にも、はっきりした個性があります。弁護士法30条の22は7つの事由を列挙し、死亡と懲戒処分(業務停止・退会命令・除名)を明文で含みます。税理士法48条の17は6事由で、税理士業務の停止処分を受けたことが脱退事由です(第8講)。司法書士・行政書士・調査士は、業務停止処分そのものではなく「欠格事由への該当」を経由して脱退させる構造です(司法書士法43条・28条2項、行政書士法13条の18・13条の5第2項、土地家屋調査士法38条・28条2項)。これに対し、社労士法25条の21は4事由だけで、業務停止処分を受けても法定脱退しません(第8講で見た税・社の対比です)。弁理士法51条も4事由型です。

競業禁止 ― 絶対的禁止か、承諾で解除できるか

在任中の競業禁止(第19講)は全法人にありますが、例外の作り方が3通りに分かれます。税理士(税理士法48条の14)・社労士(社労士法25条の18)・司法書士(司法書士法42条)・行政書士(行政書士法13条の16)・調査士(土地家屋調査士法37条)は、例外の定めのない絶対的禁止です。弁護士法人は、自己または第三者のための業務を「他の社員の承諾」があれば行えます(弁護士法30条の19第2項。他の弁護士法人の社員になることは承諾があっても不可です)。監査法人は、監査証明業務以外の業務に限り、他の社員全員の承認で可能です(公認会計士法34条の14第2項ただし書)。弁理士法には固有の競業禁止条文がなく、会社法594条(他の社員全員の承認が例外)の準用によります(弁理士法55条1項)。いずれの型でも、違反者の得た利益を法人の損害と推定する規定がセットになっている点は共通です。

常駐 ― 弁理士にはなく、弁護士には例外がある

事務所ごとに社員を常駐させる義務(第26講で支店問題の鍵になった規律)は、税理士(48条の12)・社労士(25条の16)・司法書士(39条)・行政書士(13条の14)・調査士(36条)にあります。弁護士法人にもありますが、従たる事務所については弁護士会の許可により常駐させない例外が認められています(弁護士法30条の17ただし書)。弁理士法には常駐規定がなく、公認会計士法も法律本体には常駐規定を置いていません(従たる事務所の社員常駐は内閣府令の業務管理体制の要件として現れます。公認会計士法施行規則25条7号)。支店ごと独立問題(第26講)の深刻さは、この規律の有無で大きく変わります。

監督 ― 弁護士法人も懲戒の除名により解散する

最後に、監督の違いです。7つの法人には監督官庁があり、いずれも解散を命じる処分まで用意されています。税理士法人は財務大臣(税理士法48条の20。戒告・2年以内の業務停止・解散命令)、社労士法人は厚生労働大臣(社労士法25条の24。業務停止の上限だけ1年と短いのが特徴です)、司法書士法人・調査士法人は法務大臣(司法書士法48条・土地家屋調査士法43条)、監査法人は内閣総理大臣(公認会計士法34条の21第2項)、弁理士法人は経済産業大臣(弁理士法54条)、行政書士法人は都道府県知事(行政書士法14条の2。解散を命じ得るのは主たる事務所の所在地の知事です)。

弁護士法人の懲戒は所属弁護士会等が行い、戒告、2年以内の業務停止、退会命令、除名があります(弁護士法56・57・60条)。処分名に「解散」がなくても、法人に対する除名は30条の23第1項6号の解散事由です。同項5号の解散を命ずる裁判もあります。したがって、自治的な懲戒であることから、法人全体の解散リスクがないとは説明できません。社員個人への懲戒による脱退と、法人に対する除名を分けます。

6 【本体】8士業法人マトリクス

以上を一枚に畳みます。条文はすべて各士業法の現行規定です。

表2 8士業法人マトリクス

法人 最低社員数 社員数による解散 責任限定の仕組み 業務停止処分と法定脱退 競業禁止の例外 社員の常駐 監督・解散処分
弁護士法人 1人(創設時から) 1人でも存続。欠亡は解散事由 指定社員制度。対象・通知・関与者の責任を確認(30条の14・15) 個人への懲戒等を確認(30条の22) 自己・第三者のための業務は他社員の承諾による例外。他法人の社員兼任は別(30条の19) 原則常駐。従たる事務所に会の許可による例外 自治的懲戒。法人への除名は解散事由(30条の23第1項6号)
司法書士法人 1人(令和2年〜) なし 特定社員(簡裁訴訟代理等・38条Ⅳ) 欠格該当を経由して脱退(43条・28条Ⅱ) 例外なし(42条) あり(39条) 法務大臣。解散あり(48条)
行政書士法人 1人(令和3年〜) なし なし。特定業務は執行権限のみ特定社員に限定される「ねじれ」(13条の12Ⅱ・13条の21) 欠格該当を経由して脱退(13条の18・13条の5Ⅱ) 例外なし(13条の16) あり(13条の14。特定業務は特定社員常駐も・13条の15) 都道府県知事。解散あり(14条の2)
監査法人 会計士5人以上(34条の7Ⅰ) 会計士4人以下で6か月→解散(34条の18Ⅱ) 指定証明(34条の10の4以下)。法人ごと有限責任も可(有限責任監査法人) 業務停止による脱退の号なし(34条の17・5事由) 非監査業務は全員の承認で可(34条の14Ⅱ) 法律上なし(府令の体制要件・施行規則25条7号) 内閣総理大臣。解散命令あり(34条の21Ⅱ)
弁理士法人 1人(令和4年〜) なし 指定社員(47条の3・47条の4Ⅳ) 業務停止による脱退なし(51条・4事由) 固有規定なし。会社法594条の準用(55条Ⅰ) 規定なし 経済産業大臣。解散命令あり(54条)
土地家屋調査士法人 1人(令和2年〜) なし 特定社員(ADR代理・35条の3Ⅳ) 欠格該当を経由して脱退(38条・28条Ⅱ) 例外なし(37条) あり(36条・36条の2) 法務大臣。解散あり(43条)
税理士法人 2人以上(48条の8Ⅰ) 1人で6か月→解散(48条の18Ⅱ) なし(全社員無限連帯のみ) 業務停止処分で当然脱退(48条の17・6事由) 例外なし(48条の14) あり(48条の12) 財務大臣。解散命令あり(48条の20・停止上限2年)
社労士法人 1人(平成28年〜) なし(欠亡のみ) 特定社員(紛争解決手続代理・25条の15の3Ⅳ〜Ⅵ) 業務停止でも脱退しない(25条の21・4事由) 例外なし(25条の18) あり(25条の16) 厚生労働大臣。解散命令あり(25条の24・停止上限1年)

7 税理士法人・社労士法人の読者への示唆

この比較から、本連載の読者が持ち帰るべきものは3つです。

税理士法人と社労士法人では、必要社員数、特定社員の責任、業務停止と脱退の関係が違います。制度を一律に「硬い」「柔らかい」と評価するより、今回失う資格・人数・権限と残る責任を表にして確認してください。

第二に、他士業とのグループ化のリスク評価に使うこと。税理士法人と社労士法人、あるいは行政書士法人を併設してワンストップを掲げる事務所グループは珍しくありません。グループ内の一人の資格者が複数法人の社員を兼ねるとき、その人の脱退・死亡・懲戒は、法人ごとに違うルールで、違う速さで波及します。税理士法人では6か月の時計が動き、社労士法人では動かない。懲戒の場面では、税理士法人からは当然脱退するのに、社労士法人には残る。グループの承継設計・紛争予防(第28講)は、このマトリクスを横に置いて行う必要があります。

第三に、他士業の紛争にもこの連載が使えること。冒頭で述べたとおり、脱退・除名・払戻し・引抜きの骨格は8法人共通です。弁護士法人や司法書士法人の共同経営解消に直面した方は、本編の議論を自分の法人の条文に読み替えた上で、このマトリクスで固有の違い(責任の切り方・監督・存続要件)を補正してください。読み替えの確認も含め、士業法人の内部紛争はどの資格の方からでもご相談いただけます。

本補講の要点

共通する会社法の規律と、各士業法の特則を一緒に確認します。税理士法人の2名、監査法人の公認会計士社員5名、指定・特定業務の責任、常駐と競業の例外は同じではありません。弁護士法人にも、法人への除名による解散と解散を命ずる裁判があることに注意してください。

次回 補講②「出資ゼロでも無限責任 ― 『名ばかり社員』と労務出資・信用出資の紛争」では、「出資はいらないから名前だけ社員に」という誘い文句の本当の値段を、出資の法構造から解き明かします。


【本講で引用した主な法令】弁護士法30条の8・30条の14・30条の15・30条の17・30条の19・30条の22・56条・57条/司法書士法28条・32条・36条・38条・39条・42条・43条・48条/行政書士法13条の5・13条の8・13条の12・13条の14〜13条の16・13条の18・13条の21・14条の2/公認会計士法1条の3・34条の4・34条の7・34条の10の4〜34条の10の6・34条の14・34条の17・34条の18・34条の21・34条の24・34条の33、同法施行規則25条/弁理士法43条・47条の3・47条の4・51条・54条・55条/土地家屋調査士法28条・31条・35条の3・36条・36条の2・37条・38条・43条/税理士法48条の8・48条の12・48条の14・48条の17・48条の18・48条の20/社会保険労務士法25条の11・25条の15の3・25条の16・25条の18・25条の21・25条の24/会社法580条・594条・611条・859条 ※一人法人化の改正法番号・施行日は所管官庁の公表資料による

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【補充根拠】弁護士法30条の23・30条の30・56〜60条/公認会計士法34条の4・34条の10の6〜34条の10の8。各制度の要件は、表の略記だけでなく該当条項で確認する。

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